(独)産業技術総合研究所と(独)理化学研究所は11月19日、赤い色をしたアブラムシの体色がある種の共生細菌の感染によって緑色に変化することを発見したと発表した。昆虫の体色は生命維持や生殖など最も重要な生命活動に深く関わっている。その体色が昆虫自身に備わった遺伝的メカニズムによるのではなく、共生細菌によって変わるという事実は世界で初めての発見という。生物が進化の過程で獲得してきた多彩な生物機能の一端に迫る成果である。 研究チームは、フランス農業研究所の研究者と共同で、欧州の「エンドウヒゲナガアブラムシ」というアブラムシとその共生微生物との関係を調べている際に、予想外なこの新事実を発見した。このアブラムシは、赤色と緑色の2種類あり、赤が優勢であること、また菌類に由来するある種の酵素が体色を決めていることが分かっている。酵素の遺伝子を持つアブラムシは赤色系色素を合成して赤色に、そうでないものは合成できず緑色になる。 この緑色の母虫の中には、赤色の幼虫を産むものがあり、その系統の幼虫は成長するにつれて赤から緑に完全に変化する。この系統のアブラムシの共生細菌を調べたところ、アブラムシ必須の共生細菌以外に2種類の共生細菌に感染していることが分かり、その内の1つはこれまで未発見の「リケッチエラ」という細菌だった。 そこで研究チームは、リケッチエラ感染アブラムシから体液を採取して、感染していない系統に注入し、その子孫を飼育、リケッチエラ感染系統と、感染しなかった非感染系統を多数作成した。すると、リケッチエラに感染した、もとは赤色系統だったアブラムシは全てその体色が緑色に変化した。この結果から、リケッチエラが赤色の体色を緑色に変えていることが判明したという。リケッチエラの感染により、アブラムシの緑色色素の生産が何らかの形で活性化されて体色変化が起こるのではないかと推測している。感染アブラムシでは、緑色系色素の量が非感染アブラムシの3倍以上に増加していることが認められている。 リケッチエラに感染し緑色に変わったアブラムシは、天敵のテントウムシに食べられにくくなる。半面、緑色のアブラムシに好んで産卵する寄生蜂の攻撃を受けやすくなるが、リケッチエラに感染しているアブラムシの大部分は寄生蜂に対する耐性を与える別の共生細菌と共感染していることが判明した。このことからリケッチエラは、宿主であるアブラムシの生存率を高めると同時に、自分自身の生存率を高めている可能性が示唆されるという。 研究チームは今後、共生関係と体色変化のメカニズムを遺伝子レベル、分子レベルで解明する計画。将来は、生物の色彩や外観を制御する技術などの開発につながる可能性があると見ている。
詳しくはこちら |  |
右は赤色のアブラムシ。左は、共生細菌の感染によって緑色に変わったアブラムシ(提供:産業技術総合研究所) |
|