高エネルギー加速器研究機構(KEK)は11月17日、広島大学、(財)高輝度光科学研究センターとの共同研究で、水溶液中のバクテリア(細菌)の細胞表面にレアアース(希土類元素)が高濃度に凝縮する現象を初めて発見し、放射光を用いた方法によりそのメカニズムを解明したと発表した。
レアアースは、ハイテク産業などに不可欠の資源だが、現在、世界の生産量は中国が95%以上を占めているため、その安定供給が日本国内で問題となっている。
レアアースは、性質のよく似た17の元素の総称で、鉱石からは他の副産物と共にこれら元素の混合物として得られる。ハイテク産業では、特定のレアアースを分離精製しているが、現在の方法では種々の問題があり、レアアースの回収と共にレアアース相互を分離する新しい技術の開発が望まれている。
広島大学の研究グループは、水溶液中にあるレアアースが、バクテリア細胞の表面に高濃度に凝縮する現象を初めて観測した。そのレアアース濃度は、周囲のバクテリアが存在しない部分の10万倍に達し、金属イオンの回収などに使われる陽イオン交換樹脂の10~100倍程度になる。また、レアアースの中でも特に希少資源として値段が高いツリウム(Tm)やルテチウム(Lu)を他のレアアースより選択的に濃縮することも発見した。
共同研究グループは、この現象をつくば市(茨城)にあるKEKフォトンファクトリーと兵庫県にある大型放射光施設「SPring-8」を用いたX線吸収法という手法で分析した結果、レアアースの凝集はバクテリア細胞表面のリン酸基との結合によるものであるという濃縮メカニズムを解明した。
今回の研究成果は、レアアース資源の開発、リサイクルでのレアアース回収や相互分離で、バクテリアを使用する手法が有望なことを示した。バクテリアは、安い価格で大量に培養でき、環境に与える影響も小さいことから、クリーンなレアアース資源サイクル確立のための重要な基礎的発見として注目を浴びそうだ。
この研究成果は、米国地球化学会の学術雑誌10月号に掲載された。
No.2010-45
2010年11月15日~2010年11月21日