(独)農業生物資源研究所は6月21日、東京工業大学と共同で、細胞を乾燥から保護する能力を持つタンパク質の機能を、人工の低分子ペプチドで代替することに成功したと発表した。
生物の体を作っている細胞の内側や外側は、水で満たされているが、脱水すると次第に縮み、最終的には細胞膜が破壊されてしまう。そうなると再び水分を戻しても、細胞は生き返らない。しかし、自然界には、アフリカ中部の半乾燥地帯に生息するネムリユスリカ(蚊に似ているユスリカの一種)のように、ほぼ完全な乾燥状態に耐えられる生物が存在する。
研究チームは、これまでの研究で乾燥休眠中のネムリユスリカが、細胞保護機能を持つ糖であるトレハロ―スと、LEAと呼ばれるタンパク質を蓄積していることを発見した。この2種類の分子は、細胞が、極限乾燥状態に耐え得るために、ガラス状態に変化していく上で非常に重要な役割を果たすことが知られている。しかし、トレハロ―スのガラス化による細胞保護の分子機構は分かっているが、LEAタンパク質の役割はまだ分かっていなかった。
LEAタンパク質は、大きく分けて3つのグループに分類されているが、特に第3グループのLEAタンパク質(G3LEA)が細胞の耐乾燥性に効果的とみられている。
今回の研究では、G3LEAタンパク質の立体構造と熱力学的性質などを系統的に調べた。その結果、G3LEAタンパク質は、11個のアミノ酸がつながった配列を繰り返すという特徴的なアミノ酸の繰り返し配列を持つことを見出した。さらにG3LEAタンパク質の配列を、2回あるいは4回繰り返した配列を持つモデルペプチドを化学合成した。
これらのモデルペプチド(人工的な低分子ペプチド)の立体構造などを、赤外吸収スペクトル測定や熱分析測定を行って調べた結果、乾燥状態ではα-ヘリカルコイルドコイルという強度を増した構造になった G3LEAタンパク質が、ガラス化したトレハロ―スの安定性を向上させる機能を持ち、G3LEAタンパク質とトレハロースが協調して細胞を保護していることが明らかになった。
LEAタンパク質が細胞を保護している分子機構の解明は、今後、ペプチドを用いた様々な研究によって効率的に発展していくものと考えられ、細胞の常温乾燥保存への道を開くものと期待されている。
No.2010-24
2010年6月21日~2010年6月27日