(独)物質・材料研究機構は6月15日、東京大学、(独)理化学研究所、(独)科学技術振興機構と共同でエレクトロニクスに革新をもたらすと期待されるスピントロニクス(電子の電荷とスピンの両方を利用する工学)分野で理論的に有望な新材料とされる「スキルミオン結晶」の直接観察に世界で初めて成功したと発表した。
同結晶は、その特異な構造から、高感度磁気センサー素子への応用をはじめ、これまで存在しなかった新しい物性を持つ材料として応用展開が期待されているが、非常に不安定で間接的にその存在が予想されているだけだった。今回の成果で、今後さまざまなスキルミオン結晶の作成が可能となり、新機能物質の作成に新しい道筋が見えたという。
研究は、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業ERATO型研究「十倉マルチフェロイックプロジェクト」の一環で進めた。
実験では、磁性体のFe0.5Co0.5Siが多数のスピンが渦状に配列した構造(スキルミオン)を持つことに注目、外部から当てる磁場を制御することでその構造が平面状に規則正しく並ぶ六方晶構造の2次元スキルミオン結晶を実現した。さらに、試料にかかる磁場の強度を数百ガウス以下にできるローレンツ電子顕微鏡法を用いることで温度と磁場に対する依存性などを直接観察することに成功、結晶が広い温度範囲(5~30K)で安定であることを確認した。研究グループは、この成果をもとにさらに広い温度範囲で安定する2次元スキルミオン結晶の設計・製作に取り組む。
スキルミオン結晶は、半導体ホール素子の数十倍から数百倍もの巨大な異常ホール効果を持つと予想され、磁気記憶装置に応用すればハードディスクの読み取り感度の画期的な向上などが期待されている。
(注)スピントロニクス:電子が持つ電荷だけでなくスピンの向きも制御することで半導体を中心とする従来のエレクトロニクスにはない革新的な機能を実現しようという新領域。最近急速に研究が進んでいる。