(独)農業生物資源研究所は6月14日、イネが季節変化に伴うわずか30分の「日の長さ」の違いを認識し、開花ホルモンである「フロリゲン」の合成を調節する正確な体内時計を持っていることを発見したと発表した。
多くの植物は、季節に応じて変化する日の長さを認識することで、適切な時期に開花することが知られている。中には、日の出から日の入りまでの「日の時間」が、特定の長さを超えると(もしくは特定の長さより短いと)花が咲くという植物も存在する。この「特定の日の長さ」を、「限界日長」と呼んでいる。
植物が開花する時期を決める仕組みは、遺伝子レベルでの研究が進み、かなり解明されているが、「限界日長」がどのように決まるのかは分かっていなかった。
同研究所は、今回、イネを対象として「限界日長」の研究に取り組んだ。イネを普通に10日間ほど育苗した後、4日間にわたり10~16時間までのいろいろな「日の長さ」で栽培し、開花ホルモンであるフロリゲンを合成するための遺伝子(Hd3a)などの働きを調べる実験を行った。
その結果、13時間の日長ではHd3aは強く働いていたが、わずか30分違いの13時間30分の日長では大きく落ち込み、フロリゲンの生産を増やす開花促進遺伝子(Ehd1)は、ほとんど働いていないことが分かった。また、いろいろな突然変異体(特定遺伝子の機能が壊れた系統)を調べて、開花抑制遺伝子(Ghd7)が、Hd3aの「限界日長」の反応に重要な働きをしていることも発見した。
今回の研究では、体内時計による情報の流れを制御する“門(ゲート)”の開け閉め(ゲート効果)により、日の長さを正確に知ることができることも見出した。
門とは、太陽からの光情報の流れを調節しているところのことで、一日の中の決まった時間にだけ開き、開花を早める遺伝子や開花を遅らせたりする遺伝子が働いたりする。門がしまっている時は、太陽の光を受けても植物は反応しない。
今回の研究は、植物がもつ正確な「日の長さ」の測定機構の仕組みを明らかにした画期的なもので、イネの開花期の微妙な調整を可能にし、作物の栽培に適した地域を拡大する育種につながる成果であり、将来、人工的にイネの開花期を精密に制御する技術を開発するための基盤となることが期待される。
この研究成果は、6月13日に米国の科学雑誌「Nature Genetics」のオンライン版に掲載された。
No.2010-23
2010年6月14日~2010年6月20日