生殖を操るリズムを生み出す脳内メカニズムを解明
:農業生物資源研究所/名古屋大学/東京大学/ワシントン大学

 (独)農業生物資源研究所は5月28日、名古屋大学、東京大学、米国ワシントン大学と共同で、動物の生殖を調節する脳内メカニズムを解明したと発表した。
 生殖に欠かすことのできない卵子や精子の発育は、脳の中枢神経からの指令に伴うホルモンの分泌リズムにより制御されていると考えられている。しかし、その調節機構が脳のどこに存在し、どのようにしてリズムが作られているのかについては分かっておらず、大きな謎とされてきた。
 同研究所や名大などの共同研究グループは、重要な生命活動を統御する「視床下部」と呼ばれる部位にあるキスペプチン神経細胞に注目した。性腺(雌の卵巣と雄の精巣の総称)の活動は、生殖内分泌系のペ-スメーカーである性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)によって制御されていることは知られているが、GnRHのパルス分泌を制御している本体はキスぺプチン神経細胞ではないかと考えた。
 ヤギを使った実験で、キスぺプチン神経細胞の活動を計測したところ、20~30分間隔の非常に規則正しい神経活動の上昇があり、それに対応して黄体形成ホルモン (性腺刺激ホルモン)が血中にパルス状に分泌されていることが明らかになった。
 また、キスぺプチン神経細胞は、細胞同士が密集して存在し、その多くに神経細胞を興奮させる作用を持つニューロニキンB(NKB)という物質と、逆に興奮を抑制するダイノルフィン(Dyn)という物質が含まれていることが分かった。
 今回の一連の研究で、キスぺプチン神経細胞は、ペースメーカーとして卵巣や精巣の働きを制御する神経活動を生み出していることを示すと共に、その周期的な活動リズムは、神経細胞のネットワークの中で活性化作用を持つNKBと抑制作用を持つDynという2種類の脳内生理活性物質による拮抗した相互作用により生み出されることを初めて明らかにした。
 この結果、キスぺプチン神経細胞の周期的な活動リズムは、GnRHなどのパルス状分布に変換され、最終的に性腺の活動を制御していることが明らかになった。
 今回得られた知見は、哺乳類に共通した生殖制御のメカニズムと考えられ、家畜などの繁殖向上技術の開発のみならず、人の不妊治療や遺伝的生殖機能不全の解決に貢献するものと期待されている。

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