強磁性形状記憶合金の構造変化メカニズムを解明
:物質・材料研究機構/広島大学/東北大学/東北学院大学

 (独)物質・材料研究機構は4月27日、広島大学、東北大学、東北学院大学との共同研究で、大型放射光施設「SPring-8(スプリング・エイト)」の硬X線光電子分光を使った実験と「第一原理計算」という理論的手法を用いて、強磁性形状記憶合金が示す構造相転換(物質の構造変化)のメカニズムを初めて解明したと発表した。
 強磁性形状記憶合金は、磁石の性質を持つ強磁性体で形状記憶効果(変形を受けても形状が回復する現象)が現れる物質のこと。高速応答が可能な磁場駆動アクチュエーターなどへの応用が期待されている。1996年に米国で、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、ガリウム(Ga)からなる「Ni2MnGa」という強磁性形状記憶合金が開発され、さらに2004年以降、ニッケル、マンガンに3番目の元素としてインジウム(In)かスズ(Sn)かアンチモン(Sb)が入った「Ni2MnZ」(Z=In、Sn、Sb)という新たな強磁性形状記憶合金が見つかり、実用化に向け大きな進展が見られた。
 しかし、Ni2MnZは、合金の結晶の基本構造が、高温では立方体であるのに対し、冷却してある温度になると、立方体からズレた、より複雑な構造に転移する「マルテンサイト変態」と呼ばれる現象により、Ni2MnGaのような形状記憶効果が現れないという問題点があった。
 今回の研究では、新しい強磁性形状記憶合金の一つ「Ni2Mn1+xSn1-x」のマルテンサイト変態の発現メカニズムを解明するため、SPring-8の硬X線光電子分光と第一原理計算という理論的手法を用いて詳細にその電子構造を調べた。
 その結果、ニッケルの電子状態の変化が、マルテンサイト変態に大きく関わっていることを見いだし、これまで未解明であった強磁性形状記憶合金の構造相転移のメカニズムを電子構造の立場から初めて解明した。
 このメカニズム解明は、高性能強磁性形状記憶合金をベースとする次世代アクチュエーター材料の物質設計に大きな方針を示すことが期待される。

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Ni2Mn1+xSn1-xの高温時と低温時の結晶構造(提供:物質・材料研究機構)