(独)物質・材料研究機構は4月26日、同機構のナノ計測センターが米国ミシガン工科大学、(独)情報通信研究機構と共同で有機分子層を用いて、人間の脳神経(ニューロン)のように自ら進化し、欠陥があれば自ら修復することが出来る回路「進化回路(revolutionary circuit)」を世界で初めて実現したと発表した。この研究成果は、同日発行の英国の科学雑誌「Nature Physics」電子版に掲載された。
回路は、「DDQ」と呼ばれる有機分子薄膜を金基板上に付けた構造をしており、8種類ある分子同士の結合パターンが変化して、大小様々な区画に分かれたモザイクを作る。この区画の1つが1つの回路に相当し、外部から入力として電子密度を変えるとモザイク状態が変化、その最終状態が出力となる。
発表によると、この進化回路で構成した分子プロセッサーの特徴は、第一に大規模並列処理が可能なこと。今回作成した回路では、一度に300ビットまでの並列処理ができる。第二に有機分子層の持つ自己組織力による自己修復性を持ち、ある回路が失われた場合には、別の回路がその機能を引き継ぐ。この回路は、“コンピューターの父”と呼ばれるジョン・フォン・ノイマンが1955年に提案した「セルオートマトン」モデルに基づくもので、今回初めて有機分子層で物理的に実現された。
研究グループは、その特徴を証明するため、この分子プロセッサーで熱の拡散、ガン細胞の進展という2つの自然現象をシミュレーションした。このような特徴を持つ分子プロセッサーは、自然災害や病気の発生の予測など、現在のコンピューターのアルゴリズムに乗りにくい問題を解くのに役立つと期待される。
No.2010-17
2010年4月26日~2010年5月2日