種子の品質を損なう穂発芽を防ぐ遺伝子を特定
:農業生物資源研究所/作物研究所/名古屋大学/理化学研究所

 (独)農業生物資源研究所は4月1日、農業食品産業技術総合研究機構の作物研究所や名古屋大学、(独)理化学研究所と共同で、穂発芽を防ぐ耐性を持った遺伝子を特定したと発表した。
 穂発芽とは、収穫前に降雨や温度の条件がそろった場合に、穂についたままの状態で種子が発芽する現象で、穀物品質が損なわれるためにその対策が求められている。
 現在、日本で栽培されている稲では、コシヒカリは比較的強い穂発芽耐性を持つが、その他の品種の中には穂発芽耐性が十分でないものもある。また、小麦の栽培では、穂発芽は深刻な問題になっている。
 今回、強い穂発芽耐性を持つ「カサラ―ス」と呼ばれるインド稲を用いて、穂発芽性の遺伝子の特定と機能解析に取り組んだ。その結果、穂発芽を起こしにくくする遺伝子の一つである「Sdr4」を特定した。
 また、その機能を解析した結果、穂発芽耐性遺伝子Sdr4は、以前から知られている種子の成熟を司る転写調節因子(遺伝子の働きを調節するタンパク質)「OsVP1」によって制御されていた。OsVP1は、種子の大きな特徴である「種子休眠」と、乾いた状態で生存するための「乾燥ストレス耐性」の両方を制御しているが、Sdr4では種子休眠のみを制御していることが示唆された。
 種子は、発達の過程で胚が成長するが、発芽能力を得た後は胚の発達が停止する。このような現象を種子休眠といい、種子は休眠して生育環境が整うのを待つ。
 穂発芽耐性であるカサラース型の遺伝子「Sdr4‐k」は、稲の先祖種である野生稲にも見られ、祖先型の遺伝子であることが判明した。
 一方、日本稲は、全て穂発芽耐性の弱い「日本晴」型の「Sdr4‐n」を持ち、Sdr4‐nにも機能の低下した穂発芽性のあることが分かった。
 塩基配列解析によりSdr4‐nは、栽培化の過程(野生稲から栽培稲が生まれてきた過程)で生じたSdr4‐kの働きが適度に弱くなった遺伝子だと考えられるという。
 今回の成果は、同じイネ科の作物で穂発芽の被害がより深刻な小麦の穂発芽耐性遺伝子の解明と耐性付与につながるものと期待される。
 今回の研究成果は、3月10日に米国科学アカデミー紀要のオンライン版に掲載された。

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写真左は、穂発芽耐性の強いインド稲「カサラース」。中央は、穂発芽耐性が弱い「日本晴」で、発芽している。右は、「日本晴」に「カサラース」由来のSdr4を導入した系統で、穂発芽耐性が付き発芽していない(提供:農業生物資源研究所)