水素製造用光触媒の反応活性を10倍以上高めることに成功
:産業技術総合研究所

 (独)産業技術総合研究所は3月11日、可視光の光触媒である酸化タングステン半導体をセシウムで表面処理することで、反応活性を従来の10倍以上高めることに成功したと発表した。
 入射した光子の内、反応に利用された光子の割合(可視光量子収率)は、波長420nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)で19%を記録、これまでの報告値(0.4%)の約50倍に達した。この光触媒を太陽光利用の「光触媒・電気分解ハイブリッド水素製造システム」に用いれば電解電圧をほぼ半減することができ、水素の製造コスト低下につながる。
 同研究所は、光触媒を使う水素製造システムの改善を目指し、従来の光触媒法と通常の電気分解法の両者の長所を活かした水素製造法「光触媒・電気分解ハイブリッドシステム」の開発を進めてきた。その主要課題が量子収率や太陽エネルギー変換効率の高い光触媒の実現。研究グループは、これまでの研究で酸化タングステン半導体光触媒が可視光を吸収し、従来の酸化チタン系光触媒より優れた性質を持つことを見出した。
 さらに、酸化タングステン粉末の調整条件や表面処理の最適化による活性向上を図ったところ、セシウム金属塩による表面処理を行うと反応活性が著しく向上することが分った。表面処理の手方としては、炭酸セシウムと酸化タングステンを混ぜ、500ºCで焼成するなどの手法がある。焼いた後、強酸性水や硫酸鉄水溶液で洗浄すると活性はさらに向上、未処理の酸化タングステン光触媒に比べて10倍以上になった。
 同研究所のハイブリッド水素製造システムは、鉄の2価イオンを含む水溶液を低電圧で電解するが、セシウムで表面処理した光触媒を使う時の電解電圧は従来の約半分ですむ。量子収率を更に高め、波長480nm以下の光を全て利用できるようにすれば太陽エネルギーの変換効率は2.4%に達する。
 将来、もっと長波長の光まで利用できる光触媒を開発して600nm位まで利用できるようにすれば、理論上7.5%が見込める。このため同研究所は、更なる改良を目指すことにしている。

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