高エネルギー加速器研究機構は3月12日、茨城県東海村にある同機構と(独)日本原子力研究開発機構の共同運営施設「J-PARC(大強度陽子加速器施設)」で世界最高強度のミュオン(ミュー粒子)を発生させることに成功したと発表した。 ミュオンは、パイ中間子(原子核中の陽子と中間子を結びつけている粒子)が崩壊してできる不安定素粒子の一つで、光速近くまで加速した陽子ビームを黒鉛に照射すると得られる。 今回、J-PARCのミュオン実験装置において、これまで英国のミュオン施設が記録していた6倍に当たるパルスミュオン(パルス状のミュオン)の発生を確認したもので、同機構は「高強度のパルスミュオン発生により物性物理学や原子物理学の分野の基礎的研究が格段に進展するのみならず、物質・生命科学研究への利用が期待される」とコメントしている。 ミュオンを物質に注入してミュオンの崩壊過程を観察すれば、その物質のナノスケールでの磁気構造や機能の解明ができることから、高強度のミュオンビームを磁性材料、超電導材料、燃料電池材料、生命科学などの研究開発に利用することが内外で計画されている。 J-PARCのミュオン実験装置は、2008年9月に初ミュオンの発生に成功、その後定常(連続)運転を続け、今回1パルス当たり18万個のミュオン強度を確認した。このミュオン強度は、英国のミュオン施設の1パルス当たり3万個の6倍に当たる。 J-PARCでは、ミュオンを発生させる黒鉛製ターゲット(標的)に照射する陽子ビームを加速する陽子加速器の出力を現在の3倍強に当たる1,000kWまで上げる整備・調整を今後進め、ミュオン強度をさらに高める計画。 詳しくはこちら |  |
ミュオン生成用の黒鉛製ターゲット。黒い部分(中央部)が黒鉛(提供:高エネルギー加速器研究機構) |
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