低分子の有機化合物「クロコン酸」が室温で強誘電性示すことを発見:産業技術総合研究所/東京大学/科学技術振興機構

 (独)産業技術総合研究所は2月8日、東京大学、(独)科学技術振興機構と共同で、低分子の「クロコン酸」が有機化合物としては最高の分極性能をもつ室温強誘電体であることを発見したと発表した。
 強誘電性とは、物質の電気分極(電場に置かれた物質に正負の電荷が生じる現象)が、外からの電圧の向きに応じて反転すると共に、電圧が0になっても分極が保たれるという性質。強誘電性を持つ物質(強誘電体)は、メモリーや光学素子など多彩な電子機能、光機能の基礎となる重要な材料として幅広い用途を持っている。
 有機化合物は、レアメタル(希少金属)や有毒な鉛などを含まないことから、強誘電体の高性能化を図る材料として期待されている。しかし、知られている有機強誘電体は極めて少なく、特に低分子系では分極性能などが低く、材料としての開発は遅れていた。
 同研究所では、超分子と呼ばれる酸―塩基の分子化合物を形成する手法を考案(2005年1月発表)し、室温付近で優れた分極特性などをもつ有機強誘電体の開発に取り組んできた。超分子とは、多数の分子が大きな集合体を形成することで、個々の分子だけでは発揮されない機能を発現できるという分子の集合体のこと。
 研究グループは、以前から知られていた低分子有機化合物クロコン酸に注目した。クロコン酸は、炭素、水素、酸素だけからなり、近年はクロコニウム染料の合成原料に使われている。
 今回、研究グループは、クロコン酸の良質で大型の結晶試料を育成し、強誘導性などを実測した。その結果、これまでの有機強誘電体の最高値を大きく上回るだけでなく、代表的な強誘電性材料であるチタン酸バリウムの値に迫ることが分かった。しかも、分極の反転に必要な電場は、典型的な強誘電性の有機高分子に比べて小さく、室温で安定な強誘電性を発揮した。
 古くから知られていた有機化合物が、優れた強誘電性を持つという今回の発見は、新規、既知とを問わず、その他の有機化合物も無機材料並みの強誘電性を持つ可能性があることを示した。有機材料の開発は、無機材料に比べて遅れていたが、今後その開発を促すことになる成果といえる。
 この研究成果は、英国の科学雑誌「Nature」の2月11日号に掲載された。

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