(独)物質・材料研究機構は10月19日、材料の最表面にある原子1層のスピン・元素組成・原子位置の複合分析に世界で初めて成功したと発表した。電子の電荷としての性質を利用するのが従来のエレクトロニクスだが、電荷と共に磁石としての性質も利用して従来にない革新的な素子の実現に道を開こうというスピントロニクス開発の有力な手段になると同機構は期待している。
電子は、電荷と共にスピンという磁石のような性質を持っている。その材料表面の原子1層のスピンを元素組成や原子位置との関係で複合的に分析することがスピントロニクス開発の鍵とされているが、これまでは表面の原子を数層分まとめて分析することしかできなかった。
そこで、同機構の研究グループは、「スピン偏極ヘリウムイオンビーム」と呼ばれる特殊なイオン粒子線が材料最表面のスピンとだけ相互作用することに注目、分析技術の開発に取り組んだ。
真空中に設置した材料表面にこの特殊なビームを照射すると、ビーム中のイオン粒子は材料最表面にある原子と相互作用をして表面から跳ね返るなど散乱をする。ただ、その際にスピンによる影響がどのようなものかは従来良く分かっていなかった。今回の研究により、初めて材料表面から特定の方向に散乱されてくるイオンの強度などを測定すれば、材料最表面にある原子との相互作用の際のスピンの影響を分析できることが分かった。
研究グループは、今回の成果により比較的小型の装置で手軽に材料最表面のスピンと構造の複合分析が可能になったとして、スピントロニクスの飛躍的な進展に役立つと期待している。
No.2011-42
2011年10月17日~2011年10月23日