高エネルギー加速器研究機構は8月5日、東京工業大学、お茶の水女子大学と共同で地震の原因となる断層の中で「クリープ断層」と呼ばれる断層だけがなぜ地震を起こさないまま滑らかにすべり続けるのかを解明したと発表した。同機構の放射光施設を利用した実験で、クリープ断層に含まれる鉱物の表面に吸着した水が著しい潤滑性を示すメカニズムを、世界で初めて原子レベルで突き止めた。地震を引き起こす駆動力となる地球プレート運動を含む断層の謎を物質科学の面から解明するのに貢献するものと期待される。
研究グループは、これまでに、断層に含まれる粘土鉱物と類似の層状構造を持つ白雲母(しろうんも)の表面に挟まれた塩化ナトリウム水溶液が水分子3個分に相当する厚さ1nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)以下にまで圧縮されても、著しい潤滑性を示すことを実験的に明らかにしてきた。しかし、その詳しいメカニズムは分からなかった。
そこで、電子密度の分布を0.1nm以下の分解能で調べられる「X線CTR散乱法」と呼ばれる解析手法などを用いて、白雲母と塩化ナトリウム水溶液の境界面の状態を詳しく調べた。その結果、白雲母表面に挟まれた1nm以下の水溶液では、ナトリウムイオンの周りを水分子が取り囲む状態になっていた。このため、水が安定的に存在し、それが著しい潤滑性を実現していることが分かった。
こうした水は、数百気圧の下でも安定的に存在することが分かっている。研究グループは「今後さらに地殻内の広い温度圧力条件下でどの程度安定的に存在するかを調べることで断層の物質科学の発展が期待できる」としている。
No.2011-31
2011年8月1日~2011年8月7日