熱膨張しない鉄・ニッケル合金の“不変”の原因を解明
:高エネルギー加速器研究機構/自然科学研究機構

 高エネルギー加速器研究機構と自然科学研究機構は8月1日、“不変”合金として知られる鉄とニッケルの合金がなぜ極低温から室温以上までの広い温度範囲でほとんど熱膨張しないのかを解明したと発表した。原子など極微の世界でみられる“量子ゆらぎ”と呼ばれる現象が原因という。室温以上での仕組みはこれまでもわかっていたが、極低温領域も含めて一体的に説明できる仕組みを解明したのは世界で初めて。精密機械向け材料だけでなく、革新的な電子材料の開発などにも貢献するものと期待される。
 自然科学研究機構分子科学研究所の横山利彦教授と総合研究大学院大学博士課程の江口敬太郎氏が高エネ研の放射光施設を利用、100年以上前から知られている鉄65.4%、ニッケル34.6%からなる「インバー合金」を対象に調べた。
 実験では、放射光施設が出すX線で原子周辺の微細な構造を解析する手法を利用、インバー合金の鉄原子とニッケル原子の原子間距離が温度変化と共にどう変わるかを調べた。さらにこれを、原子など極微の粒子の位置は正確に一点に決めることはできないという“量子ゆらぎ”を考慮した量子力学的シミュレーションの結果と比較した。その結果、100K(-173℃、Kは絶対温度)以下の極低温下でも実験結果がシミュレーションとよく一致していることが分かり、“不変”の原因が量子ゆらぎにあることを突き止めた。また、シミュレーション結果は、室温領域でも実験結果とよく一致していた。
 従来の理論では、原子のスピン状態の変化と熱振動の大きさが互いに打ち消し合うのが原因とされていたが、極低温下での現象はよく説明できなかった。今回の量子ゆらぎモデルでは、極低温から室温以上までの広い温度範囲の現象を同時に説明できるという。

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インバー合金の原子の配置図の例。金色が鉄原子、銀色がニッケル原子(提供:高エネルギー加速器研究機構)