(独)産業技術総合研究所は6月29日、オランダ基礎科学財団と共同で「ゼーベック・スピントンネル効果」と呼ばれる新現象を発見、この効果を利用して、電流を用いずに磁性体の電子スピンが持つデジタル情報をシリコン中に入力することに成功したと発表した。電子スピン技術とシリコン半導体技術の融合を促す成果で、電気エネルギーの浪費回避につながるため、次世代IT(情報技術)電子機器の省電力化に寄与するとしている。 電子スピンは、電子が持つ電気的性質(電荷)と並ぶ、もう一つの磁気的性質。スピンは、コマの回転を意味し、上向きのスピンと下向きのスピンがある。スピンのこの向きは、デジタル情報の「0」と「1」に対応するため、電子スピンに情報の記憶を担わせ、これをLSI(大規模集積回路)半導体材料のシリコン中に入力(スピン注入)して処理するという「シリコン・スピン融合デバイス」の開発が試みられている。磁性体からシリコンへのスピン注入は、このデバイス実現の基盤となる技術で、これまでの研究では電流によってスピン注入を試みてきたが、素子に電流を流すと熱が生じるという問題があり、それを抜本的に解決するスピン注入法の開発が望まれていた。 今回発見したゼーベック・スピントンネル効果は、温度差だけで電子スピン情報がシリコンに伝わる現象。研究チームは、ニッケル・鉄合金製の磁性体と、厚さ1.5~2nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の酸化アルミ層でできたトンネル絶縁膜、それとシリコン層の3層から成る素子をつくり実験、その結果、磁性体とシリコンとの間に電流を流すのではなく、温度差を生じさせるだけで磁性体のスピン情報をシリコンに入力することが可能なことを見出した。 今回の実験では、シリコンに電流を流して加熱し、磁性体との間に温度差を作り出したが、シリコンLSIに生じる廃熱を利用してスピン情報の入力を行う革新的な省エネルギー技術の実現につながる可能性があり、次世代融合デパイスの実現はグリーンIT化(情報技術による環境負荷低減)に向けた大きな推進力となるとしている。 詳しくはこちら | .jpg) |
ゼーベック・スピントンネル効果を観測した素子の構造(提供:産業技術総合研究機構) |
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