筑波大学は2月17日、(独)理化学研究所との共同研究で、遺伝子組換え作物の代謝の変化などを正確に知ることができる「総成分評価法」を確立することに成功したと発表した。
遺伝子組換え作物は、食用に用いられている作物に有用な遺伝子を導入して、目的とする特定の機能を付加した作物をいう。現在、植物がこれまで獲得した能力をさらに向上させた遺伝子組換え作物や、植物がこれまで持っていなかった遺伝子を導入し、新たな物質生産能力を持つ遺伝子組換え作物が作られている。
有用な遺伝子を導入した結果、従来の育種で作られた品種と比べてどの程度異なるかを評価するためには、[1]測定可能な代謝物(生体内で何段階かの反応で化学的に変化して生じる物質)の網羅性の向上、[2]取得したメタボローム(生体内で生じた全ての代謝産物)のデータを基にした適切な統計法の確立、が必要とされている。
研究グループは、メタボロームの変化に着目し、遺伝子組換え作物の成分比較に関する新しい評価法の開発に取り組んだ。対象の遺伝子組換え作物として、酸味を甘みに変える作用を持つ糖タンパク質「ミラクリン」を作る遺伝子を導入した遺伝子組換えトマト(ミラクリントマト)を使った。
「ガスクロマトグラフ・飛行時間型」など3種類の高性能質量分析装置を用いて代謝物群の測定を行い、独自に開発した手法を用いて測定したデータを自動的に組み合わせ、トマトメタボロームの網羅性が86%に達していることを明らかにした。
メタボロームの変化の客観的な評価には、同一遺伝型の背景を持つ作物との類似性や相違性を調べることも必要である。ミラクリントマトが、同じ遺伝型の背景を持つ非組換え体栽培品種(マネーメーカー)とどの程度似ているか(類似性)を新たに開発した統計的手法を用いて解析した結果、92%以上の類似性を示すことが分かった。さらに、両品種間にある非常に小さな差に着目して相違性を評価すると、栽培条件によらずミラクリントマトで変化する代謝物群(一部のアミノ酸など)を特定することにも成功した。
この科学的、客観的な手法は、他の遺伝子組換え作物の評価に直ちに応用でき、将来的に遺伝子組換え作物の安全性評価への活用が期待される。
この研究成果は、米国のオンライン科学雑誌「PLoS ONE」(2月16日付け、日本時間2月17日)に掲載された。
No.2011-7
2011年2月14日~2011年2月20日