(独)物質・材料研究機構は3月4日、大阪大学と共同で炭素原子だけで構成されるサッカーボール状の分子「フラーレンC60」を記録媒体としたデジタル情報の新しい記録方式を開発、その基本動作を実証したと発表した。 新記録方式は、超薄膜のフラーレンC60分子同士の化学結合形成状態(結合状態)と結合解消状態(非結合状態)をデジタル情報の「1」と「0」に対応させて記録する。研究グループは、新方式で現用の情報蓄積技術の約1,000倍の1 平方インチ(1 インチは、2.54cm)当たり190テラ(1テラは1兆)ビットの超高密度で情報の記録、消去、再記録に成功している。 既にハードデスクでは、1平方インチ当たり約300ギガ(1ギガは10億)ビットの蓄積密度が実現しているが、次世代としてテラビット級を目指す技術開発が続いている。この次世代開発の記録媒体として同機構と阪大の研究グループが取り上げたのがフラーレンC60。これまで、フラーレンC60の分子間結合形成には紫外・可視光照射や高温高圧が必要とされ、結合解消には100~200ºCの加熱処理が必要だったため、C60分子の結合・非結合状態をナノスケールで制御するのは困難だった。 しかし、研究グループはC60単分子同士の結合の形成と解消を高精度に室温で制御する技術開発に成功した。具体的には、導電性のシリコン(ケイ素)あるいはグラファイト(黒鉛)の基板の上に3分子層の厚さのC60超薄膜層を真空蒸着法で形成し、そこへ金属探針を1nm(ナノ㍍、1nmは10億分の1m)未満まで近づけ、基板側に負または正の電圧を加えることで探針直下のC60分子の化学結合が形成あるいは解消される。結合が生じる(「1」の時)と薄膜表面に僅かな窪みが生じ、結合が解消される(「0」の時)と窪みはなくなる。 さらに、金属針とC60薄膜間の電気抵抗から「1」及び「0」状態を簡単に見分ける手法も考案、蓄積情報を効率的に読み出せることも実証した。金属針の位置調整には、走査トンネル顕微鏡の制御システムを利用した。 これまでに情報を毎秒約1kビットの速さで記録するのに成功しているが、実用化には毎秒ギガビット以上の情報蓄積動作の高速化が必要と見られている。 詳しくはこちら |  |
新記録方式でデジタル情報を超高密度に記録したフラーレンC60超薄膜の走査トンネル顕微鏡像(提供:物質・材料研究機構) |
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