[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

日本近海で炭素・海水の数万年の循環プロセスを明らかに―マントルは大規模な炭素貯蔵庫、生命活動の解明にも関連か:海洋研究開発機構/東北大学/新潟大学/名古屋大学/産業技術総合研究所

(2021年12月3日発表)

 (国)海洋研究開発機構と東北大学、新潟大学、名古屋大学、(国)産業技術総合研究所の研究チームは12月3日、日本近海の水深6,400mのマントルで、炭素を含む海水(炭酸塩)が数万年以上かけて循環していることを明らかにしたと発表した。マントルは、炭素を超長期間にわたって保持している貯蔵庫とみられ、深海生命の活動や地球温暖化との関連に関心が持たれている。

 大気中の炭素は主に二酸化炭素やメタンとして存在し、温室効果ガスとしても知られている。しかし大気中にはわずかしかなく、90%以上は地球内部に貯蔵さている。この炭素がどのようなプロセスで地球内部から大気中に移動するかを知ることは、将来の炭素濃度の変化を予測する上で欠かせない。

 地球表面の炭素は、まずプレートの沈み込み運動によって地中内部に引きずり込まれる。地下150kmまで潜るとプレートの沈み込み方向とは別に、一部が地表方向に向かい、最終的に火山ガスとして排出されて地球大気に戻ると考えられている。しかしこの循環の詳細は分かっていなかった。

 研究チームは、東京から約1,000km南の伊豆・小笠原海溝を、有人潜水調査船「しんかい6500」で探索し、海亀海山(水深6,400m)の岩石を採取した。ここでは変質したマントル岩石の蛇紋岩が海底に露出しており、蛇紋岩中に炭酸塩(アラゴナイト)が析出した割れ目(炭酸塩脈)を発見した。

 通常はこれほどの超深海ともなると炭酸塩鉱物は海水に溶け込んでしまうが、この炭酸塩脈は岩石と反応して生まれた流体が噴出したとみられる。そこで炭酸塩鉱物の化学組成や同位体、鉱物組織を分析し、炭素を含む流体の起源や流れ方を考察し、沈み込み帯の浅いところでの炭素循環の実態を調べた。

 採取した蛇紋岩には明確な亀裂があったが、針状のアラゴナイト結晶が成長してその亀裂を塞いでいた。炭酸塩脈には蛇紋岩の破片も含まれていた。X線CTの観察では、この岩石破片は炭酸塩の中で浮いているようにみえたことから、高速の水の流れによって炭酸塩が析出したことが明らかになった。

 炭素と酸素の安定同位体や微量元素組成を測定すると、炭酸塩は海水に溶け込んだ炭素が起源であり、約2℃の深海底で蛇紋岩と海水が反応して析出したことが分かった。また放射性炭素の濃度が超深海の海水と比べて非常に低かったことから、海水に溶け込んだ炭素がマントル岩石内を数万年かけて循環し、炭酸塩鉱物として析出したとみられる。

 この析出過程を理論的に数値解析し、海水がマントル岩石内から秒速1cmから10cmの速さで噴出し、これが数十年間続いたことを導いた。熱水の噴出する速度とよく似ているため、海水が数万年以上かけてマントルに滞留し、破砕をきっかけに噴出が数十年間くらいの短期間継続したとの結論になった。

 研究では、沈み込み帯の浅部で炭素を含んだ海水が数万年以上かけて循環していることが明らかになった。深部の炭素循環が約1,000万年のスケールであるのと比べると2桁以上も短い。数万年の浅部炭素循環は、一旦沈み込んだ炭素が地表に戻ってこられるような「近道」ができているとみている。