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脳梗塞による神経障害軽減に道―免疫細胞活性化へ新物質:筑波大学ほか

(2021年10月18日発表)

 筑波大学とTNAX Biopharma(株)は10月18日、脳血管が詰まる脳梗塞によって起きる脳神経障害を早期に軽減できる手掛かりを得たと発表した。脳血管が詰まって死んだ脳細胞を除去して神経障害の進行を抑える免疫細胞「マクロファージ」を活性化させる物質を発見、マウスを用いた実験でその効果を確認した。脳梗塞の克服に向けた一歩になると期待している。

 日本人の死因第三位とされる脳梗塞では、脳の血管が詰まって脳細胞を死に至らしめる。さらにその死細胞が周辺に炎症を起こし、麻痺などの後遺症の原因にもなる。そこで筑波大の渋谷彰教授らの研究チームはこの死細胞に注目、それを早期に除去する可能性を探った。

 研究では、死んだ脳細胞を食べて処理するマクロファージの細胞膜上に現れる免疫受容体分子「CD300a」を発見、この分子が死細胞の持つ物質「リン脂質フォスファチジルセリン」と結合してマクロファージの活動を妨げることを見出した。そこで、CD300aを作れないマウスを遺伝子操作で作成したところ、この結合が阻害されてマクロファージが活性化、神経障害の原因になる死細胞がうまく処理できることが分かった。

 また、通常のマウスを用いて脳梗塞を起こさせたうえ、CD300aの働きを直接抑える抗体を投与する実験も試みた。そのうえで、3時間後に神経細胞がどの程度障害を受けているかを調べたところ、神経細胞の多くが残っており神経障害も著しく軽減されていたことが確認できた。

 渋谷教授らは「CD300aを標的とした脳梗塞の治療法の可能性が示された」としている。さらに今後は、この治療法が心筋梗塞や腎梗塞などの虚血性疾患にも有効である可能性があると期待している。