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寒冷地に強い畜産排水の低コスト排水処理システム―浄化機能の長期安定性確認:農業・食品産業技術総合研究機構

(2016年10月5日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構は10月5日、酪農施設や養豚場などの排水を浄化するための新しい「ハイブリッド伏流式人工湿地ろ過システム」が10年間安定した浄化機能を発揮することを実証したと発表した。凍結や目詰まりの問題がなく寒冷地でも使えるほか、従来型処理法に比べ低コストでコンパクトな水質浄化システムになるとしている。

 ヨシなどを植えた砂利や砂の層で排水をろ過、自然浄化力も活用する伏流式人工湿地は低コストで水質浄化できることから、海外では1970年代以降に主に生活排水処理向けに普及してきた。しかし、寒冷地で高濃度の有機性排水である畜産排水を処理するには、凍結や目詰まりを起こすという問題があった。

 そこで農研機構はこれらの問題を解決するため、(株)たすく、北海道大学、道立総合研究機構などと協力して新システムを開発、岩手県立大学の協力も得て寒冷地での長期実証試験を実施してきた。

 新システムは、砂利層の表面に厚さ5cmほどの人工軽石の層を設けてヨシを植えた人工湿地を何段階も組み合わせた多段型ろ床を採用。さらに各ろ床にサイフォンの原理を応用して排水を間欠的に供給する装置や、ろ床表面の目詰まりを防ぐバイパス構造を設けるなどの工夫をし、好気性・嫌気性の微生物によって有機物を分解する多段型ハイブリッド構造システムを実現した。

 北海道や東北地方の搾乳関連施設、養豚場、養鶏場の洗卵施設など4カ所に実用規模のシステムを設置、5~10年間にわたって排水処理を進め処理可能な水量と水質について継続的に調査した。その結果、排水の汚染度の指標である有機物や全窒素、全リンなどの浄化率は経年的に安定しているほか、懸濁物質や大腸菌も含めて夏期(5~10月)と冬期(11~4月)の浄化率に大きな差がないことがわかった。

 排水処理には膜分離法やオゾン処理法などの機械的処理法も使われているが、新システムはこれに比べて導入費用が4分の3程度、ポンプの電気代など運転費用も20分の1程度ですみ、低コストという。また従来の伏流式人工湿地に比べ、設置に必要な面積が2分の1から5分の1とコンパクト。このため新システムは、すでに北海道や東北などのほか、ベトナムなど海外も含めすでに23カ所で導入されているという。