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脳が報酬価値を効果的にモニターする仕組みを解明―ドーパミンニューロンが活動モードを切り替えて監視:筑波大学

(2021年3月12日発表)

 筑波大学は3月12日、報酬に関わっている脳部位が、持続的に変化する報酬価値を効果的にモニターしている仕組みを解明したと発表した。報酬系の中枢をなすドーパミンニューロンが活動モードを柔軟に切り替えてモニターしていることが分かったという。

 レストランなどでワインを注文した際、グラスに注がれるワインがだんだん増えていくと、お酒好きはうれしく感じる。

 このうれしさは、報酬系と呼ばれる脳の領域でモニターされていると考えられているが、その中枢をなしているドーパミンニューロン(神経伝達にドーパミンを用いている神経細胞)の反応時間は短いので、徐々に持続的に増え続けるワイン(報酬)の価値を報酬系がどうモニターしているのか謎だった。

 研究チームは今回、ドーパミンニューロンが、その活動を“一過性モード”と“持続性モード”の間で切り替えることによって、持続的に変動する価値であっても効果的にモニターする機能を持つことをサルの実験で明らかにした。

 実験は、サルを画面の前に座らせ、画面上に緑と赤の領域を持つ長方形を提示、緑の領域の増減で、得られる報酬量の増減を表した。サルにはストローをくわえさせ、液体報酬を与え、その際にドーパミンニューロンの活動を記録した。提示する報酬量は、徐々に増加する条件、徐々に減少する条件、時間変化しない条件の三つに分けた。

 報酬量が時間変化しない条件では、ドーパミンニューロンは400ms(ミリ秒、1msは1,000分の1秒)程度の一過性の活動で報酬量をモニターしていた。一方、報酬量が時間とともに増加する条件では、一過性の活動が消失し、報酬量が増加する間はドーパミンニューロンの活動が持続的に増加し続けた。時間とともに減少する条件では、報酬量が減少する間は活動が持続的に減少し続けた。

 これらの結果から、ドーパミンニューロンは二つの活動モードを柔軟に切り替えることによって、どのような条件下でも効果的に報酬価値をモニターすると考えられる、と結論付けている。