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磁気トムソン効果による出力を世界で初めて観測―熱・電気・磁気変換現象の応用の可能性広がる:物質・材料研究機構ほか

(2020年9月2日発表)

 (国)物質・材料研究機構と(国)産業技術総合研究所の共同研究グループは9月2日、「磁気トムソン効果」の直接観測に世界で初めて成功したと発表した。熱・電気・磁気の変換現象に関する基礎物理の発展と、それに基づく新機能技術の創出が期待されるとしている。

 トムソン効果は、熱エネルギーと電気エネルギーの変換に関するゼーベック効果やペルチェ効果と並ぶ熱電効果の一つ。ゼーベック効果が温度差から電圧が生じる現象、ペルチェ効果が電流から吸熱・発熱が生じる現象を表しているのに対し、トムソン効果は温度差を付けた導電体に電流を流すと吸熱もしくは発熱が生じる現象を指す。

 「磁気トムソン効果」は、このトムソン効果が磁場によって変調される現象。

 近年、磁場を印加した導電体や磁化を持つ磁性体において多彩な熱電効果が発現することが分かり、熱流と電流の相互作用に磁場や磁性の性質を取り入れた研究『スピンカロリトロニクス』が活発化している。

 ただ、トムソン効果についての磁場や磁性の影響はこれまで明らかにされておらず、ゼーベック効果やペルチェ効果に比べると計測・評価手法の確立も遅れていた。

 研究グループは今回、磁気トムソン効果の観測を試み、その直接観測に世界で初めて成功した。実験では、ビスマス・アンチモン(BiSb)合金を導電体試料とし、BiSb合金を棒状に加工して中心部にヒーターを取り付け、導電体に温度差と磁場を与えながら、電流を流した際に生じる吸発熱現象を精密に測定した。

 その結果、導電体に温度差と電流の両方に比例した吸熱・発熱が生じ、それに伴う温度変化が磁場を印加することで増強される振る舞いが観測された。さらに、系統的な測定を行うことにより、観測された吸熱・発熱信号の磁場依存性が磁気トムソン効果に由来するものであることが確認された。

 今回の実験に用いたBiSb合金における磁気トムソン効果は、非常に大きな熱電能を示し、ゼーベック効果やペルチェ効果と同等の出力を示すことが明らかになった。磁場の印加によるトムソン効果の増強は、0.9T(テスラ)の磁場で90%以上にも達した。

 磁気トムソン効果に大きな出力が見出されたことで熱・電気・磁気の相互作用がもたらす新たな熱エネルギー制御技術の創出が期待されるとしている。