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淡水魚の放射性セシウム蓄積は湖と川で大きく異なる―食べる餌や水質が関係していることを見つける:国立環境研究所

(2020年2月28日発表)

 (国)国立環境研究所は228日、淡水魚の放射性セシウムの蓄積が湖と川とで大きく異なり、湖では魚が何を食べるか、川では水質が大きく関係していることを見つけたと発表した。海水魚に比べ汚染が長期化している淡水魚の放射性セシウム濃度が今後どのように減少していくかをより正確に予測できるようにするのに役立つことが期待される。

 水の放射性セシウム濃度から魚の放射性セシウム濃度を予測するのに「移行係数」と呼ばれる指標が使われている。

 移行係数とは、魚の放射性セシウム濃度をその魚が生息している水の放射性セシウム濃度で割った値のこと。環境調査などで魚の放射性セシウム濃度を予測するのに指標として使われ、どのような魚に放射性セシウムが蓄積されやすいかを調べることができる。このため1986年のチェルノブイリ原発事故の後多くの研究が行なわれ、魚の移行係数の値のばらつきは水質や魚の生態系など様々な要因が影響して生じていることが報告されている。

 しかし、日本では2011年の福島第一原発事故の後、その研究が行なわれていないといわれる。

 そこで今回、環境研の研究グループは、福島県内の淡水魚の放射性セシウムモニタリングデータを用いて湖と川という同じ淡水であっても水質も食べる餌も異なる生態系において、移行係数がどのように違うかを比較した。「生態系の違いが移行係数に与える影響を世界で初めて調べた」と研究グループはいっている。

 研究は、環境省が2013年から2017年にかけて福島県の猪苗代湖など3つの湖と阿武隈川など5つの川から得た水生生物のモニタリングデータを用いて移行係数を算出、水質や魚の生態特性との関係を解析するという方法で行った。

 水質は、魚を採取した地点で同時に測定された懸濁物質濃度(SS)、全有機炭素濃度(TOC)、pH(ペーハー)などを、また魚の生態的特性としては平均重量と、藻類食か、プランクトン食か、魚食かといった食性、それに生息場所を用いた。

 その結果、湖と川の淡水魚の放射性セシウム移行係数は、湖にいるヤマメ、イワナといった他の魚を食べる魚食魚の値が川に棲む藻類食魚などよりずっと大きく「放射性セシウムは、魚を食べる魚に蓄積しやすい」ことが分かった。

 一方、水質の影響は、川で確認され「放射性セシウムは、きれいな水質の川に生息する魚に蓄積しやすい」ことが分かった。

 研究グループは「移行係数による淡水魚の放射性セシウム濃度の予測を行なう際には、湖と川で異なった予測モデルを準備することで、より正確な予測が行えるようになる」と今回の研究で得られた成果の有用性を挙げている。