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肝臓内の特殊なリンパ球細胞が急性肝障害を抑制―薬剤の副作用による肝障害の予防法開発に道:筑波大学

(2019年12月4日発表)

 筑波大学は12月4日、肝臓に存在する1型自然リンパ球という極めて少数の細胞が、薬剤による急性肝障害を抑制することを世界で初めて発見したと発表した。薬剤の副作用による急性肝障害の予防法の開発が期待されるという。

 薬剤による急性肝障害は普段使われる総合感冒薬、解熱鎮痛剤、抗生物質、抗がん剤、漢方薬などの副作用として少なからず起きており、重篤になると死亡するケースもある。薬剤の代謝は肝臓で行われることが多いことから、様々な代謝産物が肝臓に出現、その副作用として肝障害が多いと考えられている。しかし、薬剤の副作用による急性肝障害がどのように発症するかについては未解明な点が多く、現在のところ予防法は見つかっていない。

 研究チームは今回、肝臓にある1型自然リンパ球(ILC1)という極めて少数の特殊な細胞が、薬剤性急性肝障害の発症を抑制することを見出した。

 四塩化炭素という薬剤を使って急性肝障害を起こさせたマウスを用い、ILC1の働きを調べたところ、ILC1が激減しているマウスでは、野生型マウスに比べ、肝障害のマーカーである酵素ALTの値が4倍も高く、肝障害の顕著な悪化が認められた。これはILC1が薬剤性急性肝障害を抑制していることを示している。

 ILC1には免疫活性化因子のインターフェロンγを産生する働きがある。そこでこの作用を調べたところ、インターフェロンγを欠損するマウスでは、野生型マウスに比べて、肝障害がより悪化し、同時に、細胞死抑制分子であるBcl-xLの発現の低下が認められた。このことから、ILC1によって産生されたインターフェロンγは肝細胞のBcl-xLの発現を亢進させ、肝障害を抑制していることが示唆された。

 ILC1が存在しないマウスに薬剤を投与したところ重篤な肝障害が出現したが、このマウスの肝臓の静脈にILC1を移入し、肝臓にILC1を定着させると、薬剤を投与しても肝障害はほとんど起きなかった。

 以上の結果から、薬剤により肝障害が発生するとILC1はインターフェロンγを産生し、肝細胞内で細胞死抑制分子であるBcl-xLの発現を増加させ、肝細胞死を低下させることで肝障害を抑制することが明らかになった。

 今後、ILC1の機能を亢進させる薬剤を作れば、薬剤性急性肝障害の予防法の開発につながることが期待されるとしている。