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シリコンナノ粒子だけで高出力な全個体電池用負極電極を実現―安価で大面積化が可能、電気自動車の走行距離を伸ばすか:物質・材料研究機構

(2019年11月7日発表)

 (国)物質・材料研究機構は11月7日、市販のシリコンナノ粒子をスプレー塗装で作った負極電極体が、全個体電池で高い出力特性とサイクル特性を実現したと発表した。簡単で安価、安全で高い信頼性をもつことから、電気自動車用バッテリーの負極材として使われれば1回の充電あたりの走行距離が大幅に伸びるものと期待している。

 シリコンは電池の負極材として使われると理論容量密度が4,200mAh/gあり、現在使われている黒鉛の約11倍も高い。ところが有機電解質を使った液系電池では、シリコン負極は充電時に3倍も体積が膨らみ放電時には再び縮小する。この大きな体積変化によってシリコン粒子を結びつけていた結着材が劣化するため、シリコン粒子を脱落させる欠点があった。

 一方、全固体電池は、集電体と固体電解質でシリコン粒子を挟み込むタイプで、脱落による電池の容量減少は心配ない。

 物質・材料研はこれまで、気相法と呼ばれる高真空の特殊な装置を使って、シリコンをガス状にして基板に堆積させる方法(蒸着法)で試したところ、実用的な性能を実現していた。ただこの気相法では高真空を必要とするため大面積の作成や連続生産が難しく、コストがかさむため実用化しなかった。

 そこで全固体電池用に高い特性をもつ電極体の作成に取り組んだ。気相法に代わってスプレー塗装法を使ってシリコンナノ粒子電極体を作成した。シリコンナノ粒子はムラなく一様に積層され、平滑な表面を持つ電極体ができた。出力特性も蒸着膜に近い3,000mAh/gの容量が得られた。

 全固体電池の限定的な空間内では、充電時にシリコン粒子が3倍も体積膨張し、密着度が高まって粒子同士が強固に接合されて、あたかも連続膜のようになることからリチウムイオンが高速で拡散できる。

 液系電池では体積膨張が“欠点”だったものを、全固体電池では逆利用できるという新発見となった。

 大面積化が可能で生産性も高くなる利点がある。今回作成したシリコンナノ粒子電極体の充填量は、実用規模より一桁以上低かったものの、さらに工夫を凝らして高容量化することで、電気自動車用固体電池の開発につなげたいとしている。