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ウナギやワカサギの激減の原因に殺虫剤が浮上―宍道湖の生態系の変動調査から明らかに:産業技術総合研究所ほか

(2019年11月1日発表)

 (国)産業技術総合研究所と東京大学、島根県保健環境科学研究所などの共同研究グループは11月1日、島根県宍道湖(しんじこ)におけるウナギやワカサギの漁獲量激減の原因を調べたところ、水田などで利用されるネオニコチノイド系殺虫剤が、ウナギやワカサギの餌となる生物を殺傷し、間接的にウナギやワカサギを激減させた可能性が浮き彫りになったと発表した。

 ネオニコチノイド系殺虫剤は昆虫の神経系に特異的に作用する殺虫剤で、哺乳類や鳥類、爬虫類への安全性は高いとされるが、ミツバチの大量失踪を招いた可能性が指摘され、欧米では規制を強化する傾向にある。しかし、漁業に与える影響については世界的に未解明で、川や湖の生態系に与える影響を検証したのは宍道湖を対象にした今回の調査研究が世界で初めて。

 研究グループは宍道湖における植物プランクトンの異常繁茂を検討した1990年代の調査研究で、宍道湖は富栄養化しているにもかかわらず、1990年代にウナギやワカサギの漁獲量が大きく減少していることを把握した。しかし、当時その原因は未解明だった。

 近年これら魚類だけではなくシジミの漁獲量も激減したため、数年前から汽水湖(きすいこ)である宍道湖の生態系の変動を改めて調査していた。

 1982年夏に宍道湖に多く生息していた底生動物の1m2当たりの平均個体数を2016年夏に調べて比較したところ、大型底生動物の生息密度は顕著に減少していた。特に節足動物の減少は著しく、例えばオオユスリカ幼虫は1982年には1m2当たり100個体以上生息していたが、2016年には全く採集されなかった。

 宍道湖では住民から苦情が出るほど生息していたオオユスリカだが、1993年以降は苦情がぱったりと止んでいたことが分かった。動物プランクトンの大部分を占めるキスイヒゲナガミジンコも1993年5月に激減していたことが分かった。

 これら激減が生じた前年の1992年に日本でネオニコチノイド系殺虫剤が初めて登録され、田植えが行われる1993年5月ころから使用され始めたこと、この使用が魚類の餌となる動物を減少させ、それによってウナギやワカサギの漁獲量の激減が間接的にもたらされたことが調査の結果から推察された。

 これまでの毒性評価は大部分が淡水生物を用いて行われてきたが、淡水域より多様な種を育成している汽水域の特性に着目し、毒性試験の再検討が重要としている。