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藻類バイオマス活用に新技術―太陽光で水分除去効率化:筑波大学

(2019年6月21日発表)

 筑波大学は621日、新たな再生可能エネルギー源として注目される藻類バイオマスを太陽光で効率よく濃縮する技術を開発したと発表した。大きさの異なる微細な孔のあいた二種類の多孔質グラフェンを組み合わせ、細胞を壊さずに効率よく毛細管現象で藻類の水分を吸い上げ蒸発させる。太陽光さえあればバイオマスと純水の製造が同時にできるとして、低炭素社会実現の基盤技術になると期待している。

 筑波大の伊藤良一准教授らの研究グループが明らかにした。水中や湿地に育つ藻類は、ミドリムシや緑藻などがその仲間。体内に葉緑素を持ち太陽光があれば光合成で生育し、石油に代わるオイルを作る能力を持つものもある。ただその大部分が水分で、バイオマス資源として利用するには、いかに無駄なエネルギーを使わずに、また藻類の細胞に熱損傷を与えずに脱水できるかが課題となっていた。

 研究グループは今回、炭素原子が蜂の巣状に結合したシートに微細な孔が無数にあいた多孔質グラフェンに注目。100300μm(マイクロメートル、1µm100万分の1m )の大きい孔があいた層の上に100200nm (ナノメートル、1nm10億分の1m)の小さい孔のあいた層を配置、階層構造を持つ多孔質グラフェンを試作した。大きい孔の層の下に藻類を置き、その上に太陽光が直接あたる小さい孔の層を配置して太陽光集光部兼加熱部とした。

 実験では、大きい孔の層で藻類の水分が効果的に吸い上げられて小さい孔の層に運ばれ、太陽光があたる表面から効率よく蒸発することが分かった。真夏の正午の太陽光に相当する1時間、1㎡当たり1.0kwの照射下で1.54kgの水分が蒸発することを確認した。これに対し、大きい孔の層だけを用いた同様の実験では、1.22kgしか蒸発せず、階層構造の効果が確認できた。

 藻類の細胞に与える影響についても、直接太陽光をあてた場合には熱によって細胞が機能停止していたのに対し、今回の階層構造を持つ多孔質グラフェンを用いた実験では熱損傷が起きていないことが分かった。

 研究グループは、今回の成果について「有用なバイオ資源の効率的生産を促しつつ、純水製造も可能となる」として、今後は企業との連携を進めて実用化を目指す。