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熱放射性能を最適にする多層膜を機械学習により設計―約80億の候補から最適構造を探索し、実験で実証:物質・材料研究機構ほか

(2019年1月21日発表)

 (国)物質・材料研究機構と東京大学、新潟大学、理化学研究所の共同研究グループは121日、世界最高クラスの熱放射多層膜を、機械学習の手法である「ベイズ最適化」を用いて最適設計し、実証実験に成功したと発表した。この手法を用いることによって今後効率的な省エネルギーデバイスの開発が期待できるという。

 熱放射は熱を電磁波として放出する現象。有用な波長帯での熱放射スペクトルを狭帯域化させることができれば、無駄な熱エネルギーロスをなくし、高効率なエネルギー利用が可能となる。そこで、電磁波を自在に操れる物質をつくることによって要求を実現させる研究が盛んに試みられているが、膨大な候補物質の中から最適な構造を得ることはこれまで困難だった。

 研究グループは今回、機械学習と熱放射物性計算を組み合わせることによって、熱放射性能を最適にするメタマテリアル構造の設計手法を確立、この手法を用いて目標の性能の物質を創り出した。

 メタマテリアルは、ナノ構造を制御するなどして得られる自然界にはない性質を備えた物質を指す。今回は電磁波を自在に操れる多層膜構造のメタマテリアルの設計を目指し、3種類の物質を18層重ねて配置する組み合わせの中から最適なものを探索した。

 その結果、膜厚を変化させたことで約80億通りにも上る候補物質の中から、半導体材料と誘電体が非周期的に並ぶようなナノ構造を機械学習で得た。

 この最適メタマテリアル構造を実際に作製してその熱放射スペクトルを計測したところ、極めて狭帯域な熱放射の実現が実証された。新しい熱放射メタマテリアルの開発に機械学習が有用であることを示すもので、今後の新材料開発への貢献が期待されるとしている。