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精神的ストレスと腸の関係解明へ手がかり―特定糖鎖が減少し腸内細菌に変化:農業・食品産業技術総合研究機構ほか

(2018年10月24日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構と茨城大学は1024日、精神的ストレスが腸の働きや腸内細菌に影響を与える仕組みを解明する手がかりを得たと発表した。小腸内壁の細胞表面にある特定の糖鎖が精神的ストレスで減少、腸内細菌に影響を与えることを突き止めた。糖鎖は腸内細菌が小腸の細胞に取り付く足場になっているため、減少すると腸内細菌のバランスが崩れて健康に影響を与える可能性があるという。

 共同研究グループには農研機構と茨城大のほか、(国)産業技術総合研究所と東京大学が加わった。

 精神的ストレスが消化管の機能に悪影響をもたらして腸内の多様な細菌集団「腸内細菌叢(そう)」のバランスを変えることはよく知られている。反対に、腹痛など腸管の不快な感覚や特定の腸内細菌が作る代謝産物の刺激が脳に伝わり、ストレス症状をさらに悪化させることもある。ただ、そのメカニズムはよく分かっていなかった。

 そこで研究グループは、腸内細菌が小腸内壁を覆う腸管上皮細胞にとりつく際にその足場となる糖鎖に注目。ヒトや動物が精神的ストレスにさらされたときにこれらの糖鎖にどのような変化が現れるかを、マウスを用いて詳しく調べた。

 その結果、腸管上皮細胞の表面にある特定の糖鎖「フコシル化糖鎖」が精神的ストレスによって減少することを突き止めた。さらに精神的ストレスによってフコシル化糖鎖が減少するのは小腸下部にある腸管上皮細胞のみで、小腸の上部や大腸の腸管上皮では減少していないことが分かった。このことは、腸管上皮細胞の糖鎖にフコースを付加するときに働く酵素を作る遺伝子の働きが、精神的ストレスによって小腸下部で特異的に低下したことからも裏付けられたという。

 今回の成果について、研究グループは「精神的ストレスの負荷によって腸内細菌叢が変動する“腸内細菌―腸―脳相関”のメカニズムの解明につながる」と期待している。