細胞に遺伝子導入して心筋を作製―再生医療・薬剤開発に貢献:筑波大学ほか
(2018年8月6日発表)
筑波大学と慶応大学、(国)産業技術総合研究所は8月6日、心筋梗塞など心臓疾患の再生医療に必要な心筋・血管細胞の新しい作製法を開発したと発表した。体のどこにでもあって傷の修復などで重要な働きをする線維芽細胞にTbx6と呼ばれる遺伝子を導入するだけで、心筋細胞の元になる細胞が作れる。高価な物質を複数使うなど煩雑な工程が必要な従来法に比べ、安価で簡便な作成法になるという。
筑波大 医学医療系の家田真樹教授、慶応大 医学部の貞廣威太郎助教、産総研 創薬分子プロファイリング研究センターの五島直樹研究チーム長らの研究グループが明らかにした。
研究グループは、まず心筋細胞が作られる時にどんな遺伝子が働いているかを探った。マウスを用いた実験で、受精卵が細胞分裂を繰り返して臓器や器官を形成する発生初期に生まれる細胞集団のうち、特に心臓などの循環器系になる「心臓中胚葉」で活発に働く遺伝子58個を詳しく調べた。その結果、これらの遺伝子のうちTbx6だけが線維芽細胞から心臓中胚葉の細胞を作れることが分かった。
体のさまざまな臓器・器官になる能力を持つマウスの受精卵発生初期の細胞「ES細胞」をTbx6に導入した実験では、ES細胞の約88%が中胚葉細胞になった。さらにこれらの中胚葉細胞の多くが心臓中胚葉細胞であり、その約67%から心筋細胞や血管細胞を作り出すことができた。ヒトiPS細胞を用いた実験でも、同様の結果が得られることが確認できたという。
従来、ES細胞やiPS細胞などさまざまな臓器や器官になれる多能性幹細胞から心筋・血管細胞のもとになる心臓中胚葉細胞を作り出すのは、煩雑な工程が必要でコストが高くついた。細胞から放出され、細胞間で分化や増殖に関わる情報の伝達役として働く高価な物質「液性因子」を複数使うしかなかったためだ。
新手法について、研究グループは「高額な液性因子を使用しないため、心筋細胞を作る際の問題点だったコストを約80%削減できる」として、再生医療や薬剤開発の際の化学物質探索「スクリーニング」に役立つ心筋細胞の作製に大きく貢献すると期待している。