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新型のトポロジカル絶縁体―次世代スピントロニクスに新たな道:東北大学/名古屋大学/高エネルギー加速器研究機構

(2018年1月11日発表)

 東北大学と名古屋大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の共同研究グループは1月11日、内部は電流を流さない絶縁体なのに表面は金属状態を示す特殊な性質で注目されている「トポロジカル絶縁体」の新タイプを発見したと発表した。エレクトロニクスを超える次世代技術「電子・スピントロニクス」の開発に新たな道をひらくという。

 トポロジカル絶縁体の表面では、極微の世界の物理学である量子力学で「ディラック電子」と呼ばれる質量ゼロの特殊な電子が電気伝導を担う。そのため重さのある普通の電子が動く物質内部では絶縁体の性質を示すのに、表面は質量ゼロで格段に動きやすいディラック電子が動くため金属状態を示す。

 研究グループは今回、カルシウム・銀・ヒ素(CaAgAs)化合物の高品質単結晶を作製、高エネ研の放射光施設「フォトンファクトリー」から放射される波長の短い軟X線などを利用して単結晶を詳しく分析した。その結果、この物質が「線ノード型」と呼ばれるディラック電子を持っている新種のトポロジカル絶縁体であることが分かった。また、この線ノード型ディラック電子が結晶のミラー対称性(結晶構造が鏡に対して対称な性質)によって安定化していることも明らかにした。

 ディラック電子には線ノード型の他に「点ノード型」があることが理論的に予測されていたが、これまでに見つかっていたトポロジカル絶縁体は点ノード型で、観測が難しい線ノード型はほとんど見つからなかった。

 研究グループは「今回の発見を契機に、新しいトポロジカル物質の探索が進む」として、今後通常のトポロジカル絶縁体では現れない量子現象の探索や、高効率電子デバイスへの応用に向けた研究が大きく進展すると期待している。