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抗体活性を持つシルクたんぱく質素材を開発―がんなどの疾病診断キットが安価に作れる:農業・食品産業技術総合研究機構

(2017年11月22日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構は1122日、遺伝子組換えカイコを用いて抗体として働く性質を持ったシルクたんぱく質素材を開発したと発表した。がんなどの疾病の診断キットを安価に作ることができるようになると同機構はいっている。

 抗体は、生体内で異物と認識された分子(抗原)に対応して作られるたんぱく質のことで、抗原と特異的に結合する性質を持つことから、たんぱく質の機能解析や、疾病診断、創薬など幅広い分野への利用が期待されている。

 しかし、一方で課題を抱えている。

 医療や基礎研究で利用されている組換え抗体と呼ばれる抗体は、主に動物細胞の大量培養によって生産されているが、製造コストが非常に高くなる。大腸菌による生産方式もあるが、製造コストを下げられる反面、活性の高い抗体を得るのが難しいという難点がある。

 こうしたことから低コストで高品質の抗体が安価に得られる実用的な新しい抗体生産技術の開発が求められ、同機構はそれに応えようと「アフィニティーシルク」と呼ばれる遺伝子組換えカイコの技術を使って抗体活性を持ったシルクたんぱく質素材を開発した。

 カイコが吐く絹糸はたんぱく質でできている。アフィニティーシルクは、遺伝子組換え技術によってその絹糸を構成する繊維状たんぱく質のフィブロインに一本鎖抗体分子という抗原—抗体反応に重要な抗体分子を直接融合させて作り出した抗体活性を持つシルク素材。

 今回の新シルクたんぱく質素材は、その融合たんぱく質を繭糸(まゆいと)に発現する遺伝子組み換えカイコを開発して得たもので、胃がん・大腸がんなどの消化器系がんのスクリーニング検査で腫瘍マーカーとして広く利用されているCEAという抗原を特異的に認識する機能を持つ。このシルクたんぱく質素材を抗原・抗体反応測定用のプレート(ELISAプレート)にコーティングすれば腫瘍マーカーを定量的に効率良く検出できる。

 既にこのプレートによるCEAの定量試験を実施済みで、高感度にCEAを検出することができたという。

 同機構は「遺伝子組換えカイコが産生した繭1個から、CEA検出用のELISAプレートを20枚以上作製でき、安価に疾病診断キットを提供できる」といっている。