[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

動脈硬化の進み具合を10年間追跡調査―DNA配列の個体差による進行度の違い明らかに:産業技術総合研究所

(2017年11月7日発表)

 (国)産業技術総合研究所は117日、成人92人を対象に、動脈硬化の進み具合を10年間にわたり調査したところ、血管収縮を制御するエンドセリン受容体遺伝子の配列の違いによって進行度が異なることを見出したと発表した。また有酸素性運動を習慣的に行っている人は、そうでない人に比べ、加齢に伴う動脈硬化進行度が1/3以下だった。心血管系疾患の発症予防への応用が期待できるという。

 動脈壁の硬さの指標を動脈スティフネスといい、動脈スティフネスが高いと心臓病を発症するリスクが高いとされる。動脈スティフネスは加齢に伴って増大するが、習慣的に有酸素性運動をすると改善が認められている。ただ、エンドセリン受容体に関連する遺伝子多型のパターンによる進行度や運動効果の違いなどについては明らかでないことが多い。

 産総研は、個人によって異なる動脈硬化の進行度の遺伝的要因や運動習慣の影響を明確にするため、同一の人90人以上を対象に10年間追跡調査するという長期研究を実施した。

 20032005年に動脈スティフネスを計測したあと20132015年に再測定、また習慣的な有酸素性運動量の調査や、血管の収縮と拡張に関与している2種類のエンドセリン受容体(収縮作用はETA、拡張作用はETB)の遺伝子多型(DNA配列の個体差)を調べた。

 その結果、3種類あるETA受容体遺伝子多型のうち2種類で、動脈スティフネスの指標値(上腕と足首間における脈波の伝播速度。速いとスティフネスは高い)が有意に高かった。同じく3種類あるETB受容体多型のうち1種類で有意な高さが認められた。

 高い値が出た多型を保有する数(02)が多い人ほど指標値の増大は大きく、保有数2の人は0の人に比べ2.5倍以上だった。

 運動習慣の影響調査では、有酸素性運動量を低中高の3群に分けて比較したところ、高群は他の2群に比べて、10年間の指標値の増加量が1/3以下と低かった。有酸素性運動量「高」は、速歩やジョギングを13060分、週に45日実施するのに相当する。これまで推奨されていた有酸素性運動量の有効性が今回の調査で実証された形となったとしている。