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ディンプル付きサッカーボールの飛び方―サッカーボール表面におけるディンプル形状の空力効果:筑波大学

(2017年10月30日発表)

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©筑波大学

図1ディンプルの有無による空気抵抗(抗力)の違い。横軸は速度(レイノルズ数が対応している)。黒線はsmooth球。青点線はディンプル無し。青実線はディンプル有り。ディンプル有りは中間速度で抵抗が小さい。

図2 飛翔の軌跡。縦軸が高さ、横軸が水平距離。初速度が30 m/sで、発射角度が30°の場合。青点線がディンプル無し。青実線はディンプル有り。

 筑波大学体育系の洪性賛助教と浅井武教授は、サッカーボール表面形状(ディンプルの有無と突起の模様など)により、ボールの空力特性が変わることを明らかにしたと1030日に発表した。

 ピンポン玉を力いっぱい投げてみよう。直線を描きやがてそれがきれいな放物線となる!ーーなんてことには滅多にならない。どこかで突然遅くなったりして、上下左右に複雑な動きをする。それはツルツルした表面を持つ玉の後ろ半分に乱流が発生して、大きな渦に成長する影響を直接受けるからである。玉全体の動きが微妙に変わり、かつ抵抗を受けてしまうのである。

 ゴルフボールの場合でも表面がツルツルだと、同じように大きな渦ができ、それがボールのすぐ後ろで空気の層が表面から離れる「剥離現象」を引き起こし、結果としてボールの進行に対して大きな抵抗になってしまう。そこで、ゴルフボールでは、表面にくぼみ模様(ディンプル)を付けて、乱流状態が小さいうちに小さな渦を(ほぼ)一様に作るようにしている。それによって、「剥離現象」をボールから遠い位置に起こるようにしている。それは、抵抗を減らすので、飛距離を伸ばす寄与をしている。

  流体力学では、流体の影響はレイノルズ数で決まっている。それは、物体の速さと大きさ(球体の場合直径)の積に比例している。ゴルフボールに比べて、サッカーボールは速さでは数分の一小さいが、直径は数倍大きい。そのため、ディンプルの効果がほぼ同様に現れると期待される。

 そのような観点から、最近、サッカーボールでも、ディンプルを付ける実験が行われ、有意の寄与が確認された。結果はボールの速度によって異なる。図1の横軸は速度(レイノルズ数に変換されている)、縦軸は空気抵抗(抗力係数に変換さてれいる)である。秒速10m以下では両者に差がない。中間速度の秒速10mから20mでは、ディンプルの有る方が抵抗は少ない。ところが、高速の毎秒30mでは、逆転して、ディンプルの無い方が抵抗は小さい。

  そのため、図2のように、初速が秒速30mの強いシュートを想定した実験では、ディンプルの無い方が総合的な飛距離が大きいという結果となった。
 つまり、ディンプルのあるものは、高速での抵抗が大きいため、中間速度では早く落ち、中間速度では速度の落ち方が少ない。これは初期の様子から予測するボールの水平到達距離より長くなるため、「ボールが伸びて来る」という印象を与え、サッカーをよりダイナミックにする働きをすると思う。サッカーボールの「飛び方」においてもディンプルの寄与は本質的である。ボールのディンプルの有無は、ゲームの作戦にも影響を与えそうな点も興味深い。