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電子顕微鏡に新技術―1ナノ以下の磁気構造を可視化:物質・材料研究機構

(2017年10月12日発表)

 (国)物質・材料研究機構は1012日、磁性材料の磁場の様子を0.6nm(ナノメートル、1nm10億分の1m)以下の細かさで見られる電子顕微鏡の新技術を開発したと発表した。電子線のエネルギーのばらつきを抑える技術などを利用、従来210nmだった画像の分解能を大幅に向上させた。電子が持つ極微の磁石としての性質を利用して次世代素子実現を目指すスピントロニクスなどの研究に威力を発揮する。

 磁性材料の磁場の向きや広がりなど極微の分布「磁気構造」を観察する手法としては、透過型電子顕微鏡を用いたローレンツ顕微鏡法が知られている。これは磁性材料に電子線を照射し、材料を透過して来た電子線をレンズの働きをする磁石で屈折させて磁気構造を画像化する手法だが、従来は微細な構造がぼやけてしまうという限界があった。

 同機構は今回、このぼやけが電子レンズに入射する電子線の角度とエネルギーのばらつきによって生じる点に注目。ローレンツ顕微鏡の電子レンズを改良するなどして、入射角のばらつきの指標である球面収差係数を1,000分の1以下に、またエネルギーのばらつきを6分の1以下に減少させた。その結果、これまで観察が難しかった0.6nm以下の磁気構造まで見られるようになった。

 スピントロニクスへの応用が期待されている材料「希土類金属ジスプロシウム(Dy)」を新技術を用いた電子顕微鏡で観察したところ、磁場のない環境下でも磁気の方向がそろった極微の強磁性領域が粒子のように振る舞う磁気ソリトンを低温下でとらえることに成功した。磁場のない環境で形成された磁気ソリトンを観察できたのは今回が初めて。さらに、スピントロニクスで注目されている「磁気相分離」と呼ばれる現象も初めてナノメートルレベルで可視化することに成功した。

 同機構は、今回の成果がスピントロニクスだけでなく「基礎科学分野やエレクトロニクス、ITなどの多様な産業分野における研究開発の進展に寄与する」と期待している。