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熱帯林の樹種が温帯林よりも多様な理由を解明―鍵は季節性と樹種間の場所取り競争だった:森林総合研究所ほか

(2017年10月5日発表)

 森林総合研究所は、総合地球環境学研究所及びチューリッヒ工科大学(スイス)など13の海外の大学・研究機関と共同で、森林の樹木の多様性が緯度にともなって変化するしくみの一端を解明したと発表した。季節性と樹種同士の場所取り競争の関わりという新理論を提示したもの。

  熱帯林では数ヘクタールに数100種以上の樹種が存在するが、温帯林や北方林では同じ面積に50種以下しか存在しない。なぜ熱帯林の種多様性がこのように温帯林よりもはるかに高いのかは、種分化の頻度が高いことで説明されてきた。しかし、種分化によって新しい種が生まれても、それが定着しなければ種の多様性は高くならない。熱帯では種の定着率が高く、温帯林や北方林ではそれが低いと予想されるものの、それを説明する理論はなかった。

  樹木は芽生えた瞬間から他の種類の樹木との場所取り競争にまきこまれる。そのような状況では、成長が早い樹種や、病気にかかりにくい樹種のような、競争力の高い樹種が勝ち残ることとなる。もしこの場所取り競争がなかったら、多くの樹種が生き残り、場所取り競争が激しいと樹種が少なくなると考えられる。熱帯では場所取り競争がゆるく、温帯林や北方林では場所取り競争がきついのではないか?

 この仮説を検証するために、熱帯から北方まで世界各地(日本、パナマ、マレーシア、中国、台湾、アラスカなど)の10箇所の森林の長期データを解析した。すると、日本など季節のはっきりした温帯林では樹木の結実が一年の特定の時期に集中し、その結果として異なる樹種の芽生えが特定の年にそろって発生する傾向がみられた。一方、季節性のとぼしい熱帯林では樹木の結実する時期はそろわず、芽生えが発生する年・時期も樹種によってばらつく傾向がみられた。

 これを元にシミュレーションを行った結果、温帯林や北方林など季節性のある森林では異なる樹種同士が場所取り競争による「つぶしあい」を演じており、そのために熱帯から離れるにしたがって多様性が低下することが明らかになった。

 この研究は、緯度による種多様性の変化を説明する新理論を提示し、森林の種多様性研究に新たな地平を切り拓く成果と言える。森林における生物多様性を保全する観点からは、森林の生物多様性を育んできた背景を理解することや、森林管理のあり方を高度化させていくことが期待される。また、これらの試験地の測定ネットワークを気候変動の生物多様性への影響についての予想に役立てることも可能である。