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北西太平洋における海山間の生態系のつながり明らかに―深海鉱物資源の採掘に伴う環境保全に貢献:産業技術総合研究所

(2025年11月27日発表)

 (国)産業技術総合研究所の研究チームは11月27日、北西太平洋の深海に分布する18の海山(かいざん)を結んでいる生態的な連結性を、浮遊幼生の分散シミュレーションを用いて可視化し、深海鉱物資源の採掘の際に保全対象となり得る海山を明らかにしたと発表した。

 海山は周囲の海底から1,000m以上高い、孤立した山のような海底地形を指す。北西太平洋には、鉄やマンガンの酸化物を主成分とし、コバルトなどのレアメタルを多く含むコバルトリッチクラフトが、山の平頂部や斜面を覆うように分布する海山がいくつも存在する。

 コバルトリッチクラフトはレアメタルなどの金属資源の新たな供給源として期待され、採掘の可能性があるが、深海の海山における商業規模の採掘はこれまで実施されていないため、採掘が海山の生態系に与える影響は分かっていない。

 これまでの知見によれば、海山の生態系はそれぞれ孤立しているのではなく、海流に乗って分散する浮遊幼生によって互いに連結していると考えられている。卵からふ化した直後の幼生は海流に流されて分散し、遠くの海山へたどり着き定着することで海山間の生態的・遺伝的つながりが形成される。

 このため、採掘が生態系に与える影響を評価する際には、個々の海山だけではなく、海山間の連結性への考慮も欠かせない。

 研究チームは今回、北西太平洋の18の海山を対象に、浮遊幼生の分散シミュレーションを実施し、各海山から放出された仮想幼生が別の海山へと分散する確率を定量化した。分散確率が高いほど、その海山間での連結性が高いことを表す。分散の軌道は高解像度の海流モデルに基づいて計算、海山間の連結性をネットワークとして可視化した。

 分散シミュレーションの結果、2024年に我が国のコバルトリッチクラフトの探査対象からから除外された2つの海山が、対象領域を東西につなぐために重要な経由地であることが明らかになった。従ってこれらの2つの海山をネットワークに残せば、対象海域内の連結性の低下を防ぐことができる

 これら2つの海山における今後の保全区域の設定などの環境保全が、海域全体の連結性の維持に貢献する可能性が示されたとしている。