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新しい単原子シート「ボロフェン」の合成に成功―ホウ素の原子一層からなり、中に「質量ゼロ」の粒子を発見:東京大学/高エネルギー加速器研究機構ほか

(2017年2月20日発表)

 東京大学と中国科学院、高エネルギー加速器研究機構(KEK)は2月20日、共同でホウ素の原子一層からなる単原子シート「ボロフェン」を合成することに成功し、その中に「質量ゼロ」の粒子を発見したと発表した。質量ゼロの粒子は、グラファイト(黒鉛=炭素)の単原子シート「グラフェン」に存在することが既に知られ世界的に注目されている。合成した「ボロフェン」は、それとは異なる原子配列を持っていることを確認した。

 単原子シートは、ナノデバイスの究極の素子として注目されている。グラファイトの原子一層からなる単原子シート「グラフェン」が分離されたのは2004年のことで世界的な反響を呼び、6年後にその二人の研究者はノーベル物理学賞を受賞している。

 金属や半導体の中の電子は、質量を持った粒子として振る舞うが、「グラフェン」では質量のない粒子として電子が伝導し、シリコンの100倍という超高速で動くとされている。

 こうしたことから「グラフェン」のエレクトロニクスデバイスなどへの応用研究が今世界中で盛んに行なわれ、それに続く材料を目指してケイ素から構成される「シリセン」や、ゲルマニウムからなる「ゲルマネン」などの単原子シートの報告が相次いでいる。

 そうした流れの中で2015年に発見されたのがホウ素原子一層からできた単原子シート「ボロフェン」。

 今回の成果は、そのホウ素の単原子シート「ボロフェン」を銀の単結晶基板の上に合成することに成功したもので、電子状態をKEKのフォトンファクトリー(茨城・つくば市)で光電子分光法により観測した結果、質量ゼロの伝導粒子が「グラフェン」と異なる原子配列で存在することが分かった。

 これまでの研究から単原子シートでの質量ゼロ粒子の生成には「グラフェン」に見られるような蜂の巣構造と呼ばれる蜂の巣のような6角形の原子配列が必要とされていた。それが合成した「ボロフェン」はそうなっておらず、研究グループは「雪の結晶が1次元に並んだような異なる原子構造を有している」といっている。

 「グラフェン」を構成するグラファイトも「ボロフェン」のホウ素も共に金属元素と非金属元素の中間の半金属元素であるという点では似ている。「ボロフェン」の化学的・物理的・電気的な特性などはまだ明らかにされていないが、研究グループは「今後、本研究成果を元に、さらに多種多機能な原子シートの開発が促進され、我々の社会を支えるエレクトロニクスの発展がより加速すると期待される」とコメントしている。