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135億光年かなたの最も遠い銀河の候補「HD1」を発見―地上望遠鏡の70万個の画像データを手がかりに解析:東京大学/早稲田大学/国立天文台/筑波大学ほか

(2022年4月7日発表)

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研究チームが発見した、観測史上最遠方の銀河候補HD1の擬似カラー画像。拡大図の中心にある赤い天体が、今回発見された最遠方銀河候補HD1。VISTA望遠鏡による3色の観測データを合成することで、画像に色をつけている。
©Harikane et al.

 東京大学宇宙線研究所の播金(はりかね)優一助教と早稲田大学理工学術院の井上昭雄教授らの国際研究チームは4月7日、宇宙誕生のビッグバンから3億年たった135億光年のかなたに存在する明るい銀河の候補「HD1」を発見したと発表した。ビッグバン直後の初期宇宙で、銀河がいつどのように生まれたかの解明につながると注目されている。鳥羽商船高等専門学校、名古屋大学、オランダ・フローニンゲン大学、米・ハーバード大学などがチームに参加した。

 宇宙は今から約138億年前、高温高密度のビッグバンによって誕生したと考えられている。中でも最初の世代の星「初代星」がいつ生まれたかの観測は、銀河の形成過程を知る上で欠かせない。

 これまではハッブル宇宙望遠鏡が発見した134億光年かなたの銀河「GN-z11」が、最も遠くにある最古の銀河とみられていた。宇宙の膨張によって光の波長が伸びてしまうため、ハッブル宇宙望遠鏡がカバーしている光の波長(1.7μm(マイクロメートル、1µmは100万分の1m ))では、GN-z11より遠方の観測は不可能だった。

 播金助教らは、地上望遠鏡の観測データがハッブル宇宙望遠鏡より長い波長をカバーしていることに着目した。地上望遠鏡はこれまで、大気の影響などで星の光を捉える感度が低く、遠方銀河の探索には適さないと思われていた。研究チームは最近の複数の研究成果などから、「明るい遠方銀河が存在するに違いない」との仮説を立て、GN-z11よりも遠方の銀河の探索に着手した。

 すばる望遠鏡(ハワイ島)、VISTA望遠鏡(チリ)、UK赤外線望遠鏡(ハワイ島)と米航空宇宙局(NASA)が2003年に打ち上げたスピッツアー宇宙望遠鏡のデータから70万個以上の画像データを収集し、数ヶ月かけて綿密に調べ上げ、最遠方の銀河とみられる「HD1」を発見した。

 HD1は銀河形成の理論モデルでも予測されてなかった天体で、色は赤く、135億光年前の銀河の特徴と驚くほどよく一致していた。しかし確証を得るためには、正確な距離を測る分光観測が必要となる。

 そこで南米チリの高度5,000mに、日本が主導して建設した電波干渉計のALMA望遠鏡を使って分光観測を実施。予想される周波数の周辺に、酸素スペクトルの弱いシグナルを発見した。

 HD1は非常に明るいのが特徴。ビッグバン直後ともいえるわずか3億年の宇宙に、既にこのような明るい天体が存在していた可能性がある。非常に活発な星の形成活動をしていると考えられる反面、これはブラックホールではないかとの説も出て、議論は分かれている。

 こうした興味深い謎を解くため、ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として2021年12月に打ち上げられた「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望鏡」の準備が整い次第、早い段階で観測に入る計画を立てている。

 もし分光観測で正確な距離が確認されれば、これまでのGN-z11より1億光年遠い最遠方の銀河として記録を塗り替えることになると期待されている。

 

プレスリリース英語版はこちら: 【Press Release】Most Distant Galaxy Candidate Yet

プレスリリース日本語版は以下を参照: