繭(まゆ)のセリシンに新用途―化粧品などへの利用が可能に:ユースキン製薬(株)/農業・食品産業技術総合研究機構
(2024年8月21日発表)
ユースキン製薬(株)と(国)農業・食品産業技術総合研究機構は8月21日、共同でカイコの繭(まゆ)の一成分「セリシン」を使って新しい皮膚保護剤を開発したと発表した。セリシンとグリセリンとを組み合わせることによってこれまで得ることが難しかった安定性のある高分子量セリシン作りに成功したもので、化粧品など広い活用が期待できるという。
生糸を作る生物はカイコで蛾(が)の一種。桑の葉を食べて幼虫からサナギになり成長が止まる頃になると2種類のたんぱく質を主成分とする糸(絹糸)を吐いて繭を作るようになる。
その糸が生糸で、繭繊維の直径は20~30μm (マイクロメートル、1µmは1,000分の1mm )と細い。“正体”は、繊維状たんぱく質のフィブロインで、周りをもう一つのたんぱく質のセリシンが取り巻いている。しかし、生糸から絹製品を作る際にはフィブロインだけを残し周りの親水性(水に溶け易い性質)のセリシンの方は分解して取り除かれている。
このため、フィブロインだけが高級天然繊維として様々な分野に使われ、セリシンの方は利用が進んでいない。
セリシンも分解されていない高分子量状態を維持できれば透明な被膜が作れることが知られているが、セリシンは変質し易く不安定な物質のためこれまで長期間にわたる安定化は難しかった。
そこで今回、共同研究グループは、農研機構が保有している「セリシンホープ」と呼ばれている特殊なカイコに着目し、安定な高分子量セリシン作りに挑戦した。
セリシンホープは、フィブロインを作らずに、98%以上がセリシンでできている繭を作るという特徴を持つが、グリセリンと組み合わせることで変質し易い高分子量セリシンを安定して長期間にわたって維持できるようにすることに成功したもので、「高分子量セリシン-グリセリン組成物(HSG)」と名付けた。
HSGは、大量生産が可能で「化粧品素材として製造面・機能面・安定性の全てにおいて扱いやすい」と研究グループはいっている。
HSGは、グリセリン分を取り除いて乾燥すると滑らかな被膜になり、実験の結果①皮膚に使うとグリセリンが皮膚内に浸透する一方、高分子量セリシンが皮膚上に残って被膜を形成する、②クリームなどの化粧品への配合が可能で、皮膚の水分蒸散を抑制する、といった機能を持っていることを確認したという。