高強度レーヨンに匹敵する性能の複合セルロース繊維開発―カーボンナノチューブで補強、環境負荷を低減:産業技術総合研究所ほか
(2024年6月25日発表)
(国)産業技術総合研究所とオーミケンシ(株)、信州大学の共同研究グループは6月25日、高強度レーヨンに匹敵する強度と伸度を両立した低環境負荷カーボンナノチューブ複合セルロース繊維を開発したと発表した。車のパンク時にタイヤの形状を保持し、一定距離走行を可能とする「タイヤコード」への利用が期待できるという。
車の自動運転においては安全性を確保するため、走行中にパンクしても一定距離走行を継続できるランフラットタイヤの使用が求められている。ランフラットタイヤは、側面にタイヤコードと呼ばれる、タイヤの形状を維持するための構造を備えたタイヤで、タイヤコードにはポリエステル、ナイロンなどのほか、主としてセルロース繊維の一つであるレーヨンが用いられている。
レーヨンは強度、伸度、タフネス、耐熱性能等の面でタイヤコードに求められる優れた特性を備えている。しかし、製造の際、溶媒に毒性の強い化合物を使うために高い環境負荷が懸念されている。
また、環境負荷の低い方法で得られるセルロース繊維はレーヨンに比べると伸度やタフネスが劣っており、レーヨンの代替品は得られていない。
そこで研究グループは、低環境負荷で製造でき、かつレーヨンと同等の特性が得られる繊維製法の開発に取り組んだ。
着目したのが溶剤にイオン液体を用い、カーボンナノチューブを補強材に用いる方法。イオン液体を溶剤とするセルロース繊維製法はリサイクルが可能で環境負荷が低い。ただ、この製法で得られる繊維は伸度とタフネスが高強度レーヨンに及ばない。
そこで、カーボンナノチューブ束のサイズを調節して添加し、強度と伸度を両立させることに成功した。カーボンナノチューブを0.1%添加することでセルロース繊維の強度を保ちながら伸度を3割増加、タフネスを4割増加させることができた。繊維の紡糸速度も3割増加し、生産性が向上することがわかったという。
新開発のこのカーボンナノチューブ複合セルロース繊維は、自動運転車の普及に向けたランフラットタイヤへの活用が期待されるとしている。