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冬小麦が排出量上回る二酸化炭素吸収―デリー上空の観測で確認:国立環境研究所/気象庁気象研究所

(2016年12月1日発表)

 (国)国立環境研究所と国土交通省の気象庁気象研究所は12月1日、インド北部の大都市デリー上空で二酸化炭素(CO2)の濃度が冬から初春にかけて非常に低くなることを突き止めたと発表した。冬小麦などの農作物による吸収が原因とみられ、その吸収量はこの時期にデリー周辺で排出される人為起源CO2の2倍に達するという。地球の炭素循環を理解するうえで、穀物栽培によるCO2の吸収量は無視できないことが明らかになった。

 日本航空の旅客機を利用した温室効果ガス観測プロジェクト(CONTRAIL)を2005年に開始、デリー空港上空で約10年間にわたって離発着時にCO2の鉛直方向の濃度を観測、787回分の観測データを解析した。

 北半球では、一般に陸上植物の光合成が活発になる8~9月にかけては上空のCO2濃度は非常に低くなる。この時季は対流によって大気が混ざるため、地表面から上空12km付近まではほぼ同時に濃度が下がることがわかっている。しかし夏が終わると、人為的な排出に加えて植物の光合成が衰えるため、CO2濃度は地表面から上昇し始め、次第に上空へとその傾向が伝わっていくことが知られている。

 ところが、デリー上空では10~12月にCO2濃度の上昇が始まることは確認できたものの、夏が終わって1~3月になっても地表付近でCO2濃度が非常に低いままであることが今回の研究で明らかになった。北半球の他の観測地点と同様にこの時季にはCO2濃度の上昇が起きるとの事前の予想が外れたことになる。

 このため研究グループは「デリーの地表付近には1~3月にCO2を吸収するメカニズムが存在する」とみている。デリー周辺では、この時季は冬小麦の生育時季と一致しているため、冬小麦の栽培によってデリー特有のCO2濃度の季節変動が作り出されていることが原因と研究グループは分析している。