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次世代リチウム2次電池用の金属負極保護技術を開発―高強度高分子ゲル電解質で被覆しサイクル寿命大幅に改善:物質・材料研究機構

(2023年4月19日発表)

 (国)物質・材料研究機構は4月19日、非常に高い力学強度を持つ高分子ゲル電解質を創製し、これをリチウム金属負極の保護被膜として用いることにより、リチウム金属電池のサイクル性能を大幅に高めることに成功したと発表した。究極の負極材料であるリチウム金属負極の実用化開発に道を開く成果という。

 リチウム二次電池は年々需要が高まり、より高性能化が求められている。

 リチウム金属は、非常に高い理論容量と低い作動電位から、しばしば「究極の負極材料」とも呼ばれ、高いエネルギー密度を持つ次世代リチウム二次電池の実現の可能性を秘めた材料として有望視されている。

 しかし、充放電の繰り返しに伴い、性能劣化の原因となる樹枝状結晶のデンドライトや、金属が剥がれるデッドリチウムが生じやすく、充放電サイクルの寿命や安全性に課題を抱えている。

 この問題の解決を目指した様々な研究が世界中で活発に展開されているが、そうした中で近年、高分子を用いてデンドライトやデッドリチウムを抑制する試みが注目されている。

 研究グループはその試みの一つとして今回、高濃度リチウム塩が溶解した有機溶媒と水素結合性高分子から成る高分子ゲル電解質を作製した。この高分子ゲル電解質は、これまでに作られた高分子ゲル電解質の中で破格に高い力学強度と伸長性を持つ。

 これをリチウム金属負極の保護被膜として用い、サイクル寿命などの性能をテストしたところ、保護被膜がないと200時間程度でショートしたものが、保護被膜を導入すると1,000時間以上の長期サイクルに耐え、サイクル安定性の大きな向上が認められた。

 さらに、NCM正極とも呼ばれる高エネルギー正極材料とリチウム金属負極から成るリチウム金属電池をつくり、保護被膜の有無で特性を比較したところ、保護被膜導入によりサイクル特性の大幅な向上が確認された。

 研究グループは、今回の人工保護被膜はリチウム金属負極を使いこなす上で重要な技術になるとみており、今後実用化に必要な各種課題の解決に取り組んでいきたいとしている。