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母親の栄養バランスが、子供の重金属濃度と低体重のリスクに影響―妊娠前から質の高い食事を摂ることの重要性を裏付け:国立環境研究所

(2023年3月3日発表)

 (国)国立環境研究所の大久保 公美(おおくぼ ひとみ)JSPS特別研究員と中山 祥嗣次長らの研究グループは3月3日、母親の食事の質と、新生児の健康との関連を明らかにしたと発表した。母親の食事の質が高いと、新生児の血中の重金属(鉛、カドミウム)濃度が低く、低体重児が生まれるリスクも低くなる一方で、水銀濃度がやや高くなる傾向が見られた。

 環境省が2010年度から始めた「子どもの健康と環境に関する全国調査」(エコチル調査)の一環で、全国10万組の親子を対象にした大規模で長期間にわたる調査となった。

 母親の臍帯血(さいたいけつ)、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析しつつ追跡調査を加え、主に子どもの健康と重金属物質等の環境要因の関係を調べるのが狙い。

 食事は胎児の成長や発達に欠かせない栄養素であると共に、胎児に有害な影響をもたらすといわれる重金属が母体内に取り込まれる経路ともなっている。

 調査対象の10万組のうち妊娠前から妊娠中にかけての母親の食事の質と母体血液中の重金属濃度、子どもの出生時体重などのデータが揃っている母子7万2,317組を解析した。

 食事の質は、厚生労働省と農林水産省が共同で作成した食事バランスガイドの目安を元に、得点が高いほど食事の質が高くなるスコアを作り算出した。

 その結果、食事の質が高い群は、低い群と比較して母親の血中の重金属の鉛とカドミウムの濃度が低くなり、2,500g未満で生まれる低体重児の発生リスクを下げる可能性があることも分かった。一方で同じ重金属でも水銀濃度はわずかながら高くなる傾向がみられた。

 質の高い食事には、カルシウムや鉄、亜鉛などのミネラルが腸管からの重金属の吸収を防ぐ働きがある。また重金属による酸化ストレスと炎症作用を緩和する抗酸化栄養素が豊富に含まれている。これらが胎児の成長にとって有害な影響を減らす可能性があると考えられる。

 一方で食事の質が高いほど水銀濃度がわずかに高くなる傾向については、魚介類の摂取量が多いことに関係しているとみられる。

 今後は水銀の取り込み源となる魚介類の種類や取り込みの上限量を考慮した上で、食事の質と重金属が子どもの健康や発達にどのように影響しているかをより詳細に調べることにしている。