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量子情報を担う単一電子を孤立パルスで高効率に移送―汎用量子コンピュータの実現に貢献へ:産業技術総合研究所ほか

(2022年9月7日発表)

 (国)産業技術総合研究所と東京工業大学、フランス国立科学研究センターなどの共同研究グループは9月7日、表面弾性波の孤立パルスの発生技術を開発し、その技術を用いて単一電子の高効率な移送を実現したと発表した。余分な表面弾性波による周囲の電子への悪影響を除けるため、量子ビットの集積化への貢献などが期待されるという。

 将来広く用いられる汎用(はんよう)量子コンピュータの実現には、量子情報処理の基本単位である量子ビットの間で情報を移送する手段の確立が必要不可欠とされている。

 この移送手段の有力候補の一つとして、物質の表面を伝わる表面弾性波を用いた単一電子の移送技術があり、この技術によれば、電子のスピン状態が持つ量子情報を運べることが実証されている。

 しかし、これまでの研究で用いられてきた表面弾性波は、電子の移送に関わらない多くの波を含む表面弾性波バーストで、電子に対して余分な擾乱(じょうらん)が加わるなどの問題点があった。

 研究グループは今回、表面弾性波の孤立パルスを十分な強度で発生させることができる独自技術を開発し、電子が持つ量子情報を、この孤立パルスによって離れた量子ビット間で確実に移送させることに成功した。

 単一電子の移送実験によると、99%を超える高い確率での移送に成功したという。

 開発した新技術は、余分な表面弾性波の波による電子への擾乱を避けることができると共に、各量子ビットに対する高周波を用いた電圧制御を使わずに、電子を移送するタイミングを制御することが可能で、将来の集積量子系の構築に向けた基盤技術としての利用が期待されるとしている。