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鎮静剤等の多量服用―高齢者の要介護認定リスクに:筑波大学/つくば市

(2022年5月16日発表)

 筑波大学は5月16日、鎮静薬や自律神経の働きを調整する抗コリン作用薬を多量に服用している高齢者ほど要介護認定のリスクが高まるという研究結果を発表した。つくば市と協力して同市在住の高齢者の医療記録を要介護認定調査データと突き合わせて分析した結果、明らかになった。医療現場での薬剤処方のあり方や地域の保健行政に役立つと期待している。

 筑波大学の田宮菜奈子教授らがつくば市と協力、国民健康保険・後期高齢者医療制度の被保険者を対象に鎮静薬などの薬剤が高齢者に与える影響を分析した。調査対象になったのは65歳以上の市民の約9割に達した。

 研究では、2014~18年度に新たに要支援・要介護認定者になった高齢者2,123人を対象に、認定前の2年間に処方された鎮静・抗コリン作用を持つ薬剤の量を109種類の薬剤について調査した。さらに、年齢や性別、生活圏域、観察期間が一致する一方で要介護認定はされていない市民4万295人についても、鎮静・抗コリン作用を持つ薬剤の処方量を調べて比較した。

 分析にあたっては、要介護認定の原因にもなる傷病の有無や通院・入院状況についても勘案(かんあん)した。また、同時に何種類もの薬剤を使う多剤併用による要介護認定リスクへの影響についても統計的に調整した。その結果、鎮静・抗コリン作用を持つ薬剤の累積処方量が多い高齢者ほど、また使用された薬剤の種類が多いほど、要介護認定のリスクが高くなっていたことが分かった。

 今回の成果について、田宮教授らは「鎮静・抗コリン作用を持つ薬剤の減量が高齢者の自立期間を延長するかどうかはさらなる検証が必要」としながら、市町村が医療機関などと連携して地域でこれらの薬剤の処方低減に取り組む施策を推進する根拠になると話している。