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プリンテッドエレクトロニクスに朗報―銀を使わない新しい金属インクを開発:物質・材料研究機構ほか

(2022年2月22日発表)

 (国)物質・材料研究機構は2月22日、印刷技術を使って半導体デバイスなどを作る「プリンテッドエレクトロニクス」向けの新しいインクを開発したと発表した。プリンテッドエレクトロニクスは、既存の半導体製造技術より簡便なことから電子回路やセンサーの製造をはじめ様々な利用が期待されている。その鍵を握っているのがインク。研究グループはこれまでと異なる材料を使い安価で性能の良いインクの開発に成功した。住友金属鉱山(株)とベンチャー企業の(株)プリウェイズの両社が近日中にサンプルの提供を開始する予定という。

 プリンテッドエレクトロニクスは、金属のナノ粒子や半導体の分子をインク中に分散させ、そのインクを使ってフィルムなどの基板上にパターンを形成して電子回路や半導体デバイスを作る技術のこと。

 広い用途に利用され、インクは銀ナノ粒子インクと呼ばれる直径がナノメートル(1nmは10億分の1m)オーダーの超微細な銀の粒子を分散させたインクが主に使われている。

 だが、銀は貴重な貴金属であるため価格が高い。さらに性能的にもはんだ付けの熱に対する耐性が低い、マイグレーションと呼ばれる金属の移動が生じて回路に断線が起きやすい、といった泣き所を抱えている。

 研究グループは、異なる錯体(さくたい:金属と非金属の原子が結びついた化合物)を混合することにより大気中でも安定で、かつ安価な金属インクができることを発見、その原理を使って銅とニッケルを含む銅・ニッケル配線が得られる新しい金属インクを開発することに成功した。

 銅のナノ粒子は極めて酸化に弱いが、開発した銅・ニッケル金属インクは酸化に強いニッケルが銅の表面を覆うため耐酸化性が大幅に改善し、フレキシブル基板への密着性が良く、はんだへの高い耐性が確認され、印刷配線の抵抗率(電気抵抗)は従来の金属インクと比べてそん色のない19µΩcm(マイクロオームセンチメートル)を記録しているという。

 このインクは、微細な銅粉を添加することで厚みの厚い印刷ができるという特徴も持っており、引き続き添加する微粒銅粉の開発を進めている。

 研究グループは「安価で安定な金属インクの供給が可能になり、プリンテッドエレクトロニクスの一層の普及が期待される」といっている。