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中国から飛来するブラックカーボンは家庭用燃料の排出物と解明―調理・暖房機器を石炭からガスに置き換えれば低コストで低減可能:海洋研究開発機構/神戸大学/国立環境研究所ほか

(2021年12月16日発表)

 (国)海洋研究開発機構、神戸大学、(国)国立環境研究所、国立極地研究所は12月16日、日本に飛来する温暖化物質のブラックカーボン(黒いすす)が主に中国の家庭用燃料から発生したものと解明したと発表した。新型コロナウイルス対策として執(と)られたロックダウン(都市封鎖)とそれ以前の観測結果とを比較して解明した。石炭ベースの調理・暖房器具を、ガスベースに置き換えることが低コストの温暖化対策になると、研究チームは指摘している。

 ブラックカーボンは、石炭の燃焼やバイオマス燃料などの使用で大気中に排出される黒いすすを指す。太陽光の吸収率が高く、雪氷面の反射率を低下させることから、二酸化炭素(CO)とメタンに次ぐ重要な温暖化原因物質とされている。特に北極域の温暖化に影響を与えているとみられる。

 海洋研究開発センターは、長崎県福江島(ふくえじま)に大気環境観測施設を設け、10年以上前から観測を続けてきた。ここは中国からの大気汚染物質が2日以内に運ばれてくる至近距離にある。

 中国のブラックカーボンの発生量は世界の約3分の1を占める。この10年で4割も大幅減少はしているものの、国民一人あたりの排出量はまだ日本の約3倍と高い。主な排出源は産業部門と運輸部門、家庭部門とみられているが、主要な排出起源を特定できずに効果的な対策がなされてなかった。

 中国は新型コロナウイルスの蔓延を抑えるために、2020年2月から3月にかけて全土でロックダウンを実施した。その結果、産業・運輸部門からのブラックカーボンの排出が大きく抑制された。だが家庭部門からの排出はこの期間、大きな変化はなかった。そこで排出バランスが変化した時期の福江島観測データを使い、2019年の同時期と比較することで排出部門の寄与率を解析した。

 中国から到達した時間の空気集団のみを扱い、降水による影響を避けるため、経路上の積算降水量が1mm以下の観測データだけを使った。風の影響も受けないように配慮した。

 ロックダウン中の濃度の平均は、それ以前の5年間と比べて大差なかったが、幾つかの補正を加えると2020年は前年と比べ18%減少していた。主に産業・運輸部門によると考えられる。

 産業・運輸部門の全活動量のうち半分(50%)はロックダウン中も稼働していたとの別の研究成果がある。すると、18%の2倍の36%が2019年の産業運輸部門からの発生とみられ、残りの64%が2019年の家庭部門からの排出量となり、これが主要な排出源だと算出した。言い換えると、ロックダウンの影響を受けにくかった家庭部門が大きく寄与していた。

 家庭部門からのブラックカーボン削減対策の経済性も推計したところ、0.4Tg(テラグラム、Tは1兆)まで削減してもかかる費用は1kg排出削減あたり20ユーロ以下と低コストで、家庭部門の対策が最も好ましい。具体的には、石炭ベースの調理・暖房器具をガスベースの代替品に置き換えるのが有効としている。