見えない植物の生育地を予測する!! ラフレシアの保全に期待
(2022年4月01日)
ラフレシア・アルノルディの花は、単一の花としては世界最大です。しかし、花が咲いていない時には、なかなか見つけることができません。なぜなら、ラフレシア科の植物は寄生植物で、すべての栄養を宿主となる植物に依存し、自らの根、茎、葉は退化していて、光合成のための葉緑素も存在しないからです。このため、花以外には、ラフレシアを見つける手がかりが、ほとんどないのです。
ラフレシア・アルノルディはスマトラ島やボルネオ島の熱帯雨林に生育する植物で、インドネシアの固有種の一つです。スマトラ島には11種のブドウ科ミツバカズラ属のツル植物が生育していますが、そのうち3種はラフレシア・アルノルディが寄生する植物として知られています。
注目度の高いラフレシアですが、その生育環境の多くが失われている可能性が高いと考えられています。というのも、スマトラ島では森林破壊が急速に進んでいて、過去40年間ほどで森林の半分が失われてしまったからです。そのため、ラフレシアの保全対策が急がれます。
しかし、熱帯雨林の調査が困難なこともあり、宿主となるツル植物がどこに生育しているのか、どのような生育条件のツル植物にラフレシアが寄生しているのかなど、未だに正確な情報が得られていません。生育地がわからないことには、ラフレシアを保護することも難しいということになります。
そこで、インドネシアの国立研究改革庁の研究グループは、種分布のモデリングに着目し、生育域の狭い希少種の分布を予測するのに優れた手法を駆使して研究を進めました。種分布モデリングには、宿主となるミツバカズラ属植物3種やラフレシア・アルノルディの分布情報に加えて、地形、土壌、気候、土地被覆といった環境データが使われました。
解析の結果、ラフレシアの生育にとって最も重要な環境要因は、年平均気温と傾斜でした。ラフレシアの生育地は中程度の傾斜の丘陵で、温度の範囲が25~29℃。この条件は上流域からの確実な水流と関連していると考えられます。その次に標高や土壌の種類が重要だとわかりました。
こうして、スマトラ島におけるラフレシア・アルノルディとその宿主植物に適した生育地を示す地図が作られました。それによると、スマトラ島西部、ランプン州からアチェ州にかけてブキ・バリサン山脈に沿って分布する傾向があるということが確認されました。その中では、ラフレシア・アルノルディと宿主植物の生育適地の多くは保護区の外にあると予測され、生育地として保全対象となる地域は46カ所でした。これらの成果は、インドネシアの国花であるラフレシアを保全するのに役立つと期待されます。
【参考】
・Renjana E. et al. (2022) Assessing potential habitat suitability of parasitic plant: A case study of Rafflesia arnoldii and its host plants. Global Ecology and Conservation. 34: e02063
https://doi.org/10.1016/j.gecco.2022.e02063
保谷彰彦
文筆家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。専門は植物の進化や生態。主な著書は、新刊『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(共に、あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。